「ブリストル研究所」って何? 「ワクイミュージアム」で知られる通人・涌井清春氏が語る「水墨画の老人」の境地とは【special interview】
故・川上 完さんのブリストル406が、すべてのはじまりだった
いっぽうの「ブリストル研究所」のはじまりは、ワクイミュージアム館長だった時代の涌井氏が、2014年に惜しまれつつ逝去した自動車評論家、故・川上 完さんのご遺族からの依頼により、彼が長年愛用してきた「ブリストル406」をお預かりしたことまで遡る。 当初はワクイミュージアムの販売部門「ワクイミュージアム・ヘリテージ」にて、ロールス・ロイス/ベントレーたちとともに並べて展示し、完さんの歴史を引き継いでくれる新たなオーナーを探すはずだった。ところが、涌井氏いわく「趣味のいい一流のスポーティなクルマ。走りっぷりとクオリティの高さでは、世界が名車と称える“ベントレー Rタイプ・コンチネンタル”にも匹敵する」というブリストル406にどんどん惹かれてしまい、いつしか自らのコレクションに加えつつ探求してゆくことを決意する。 そこで涌井氏は、かつてロールス・ロイス/ベントレーに出会ったころと同じように入手可能な限りの文献を集めつつ、まずは個人的な研究としてスタートした。そしてそれらの文献から、ブリストル創業当時の関係者の思いを知ったうえで、あらためて自身のものとなったブリストル406を観察してみると、本で読んだ作り手の哲学がクルマに見事なかたちで反映されているさまを確認。ブリストルの深遠な世界に、さらにのめり込むようになってゆく。
ロールス・ロイス/ベントレーのオーソリティがブリストルの研究に注力
くわえて、1980年代末に創業し、2008年には「ワクイミュージアム」も開設した一連の事業を某大企業グループに譲渡し、身軽な立場となったことから心機一転。新しいチャレンジとして、ついにブリストルに注力することにした。 そこで、元「完さん」の406に追加するかたちで、以前から日本国内にひっそり生息していたという「401」を入手したほか、それまで世界唯一のブリストル専門ディーラーだった英国「SLJハケット」社と代理店契約を締結。そのショップからもう1台の406と、これまで日本上陸を果たしたことのなかったV8モデル「410」、そしてブリストルの第1作である「400」を新たに英国から輸入し、顧客に販売することにした。 さらには、ブリストルに関するもので英語表記ではない文献は、われわれの知る限りでは皆無だったこと、ワクイミュージアム時代にも、ロールス・ロイスおよびベントレーの歴史書を上梓した経験もあることから、「本がないなら作ってしまおう」と、ブリストルに関する歴史書も自費出版することになった。 そして、その本の製作のために日本国内のブリストル車の生息状況を調べてみると、やはり国内にはわれわれが把握しているもの以外には、数台程度しか存在しないことが判明。素晴らしい資質を持ちながら、やはり日本ではあまり知られていないブリストルを、わずかばかりでもお伝えしてゆきたいという思いを新たにすることになったのである。
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