「人への投資」で注目のリスキリング、取り組んでいる企業は 8.9%にとどまる 課題は「モチベーションの維持」
今後の見通し:リーダーの推進力が欠かせないリスキリング、目的と目標の設定がモチベーション維持のカギ
最新の調査では企業の約半数が正社員不足を感じており、人手不足は慢性化している 。そのなかで政府が掲げている「人への投資」の大本命ともいえるリスキリングに取り組んでいる企業は、8.9%とごく一部にとどまっていた。また、業種や企業規模によって取り組み状況には差が見られ、その手段としてはオンラインツールが活用されている実態もみられた。 そうしたなか、リスキリングに取り組む課題については、取り組みの有無で違いが鮮明に表れた。取り組んでいない企業では時間や人材などのリソース確保が難しく、それに対して取り組んでいる企業では「モチベーションの維持」が課題となっている現状が浮き彫りとなった。 リソースの確保やモチベーションの維持といった課題の解消に向けて肝要となるのは、経営層を中心としたリーダー層による推進力だ。「新しいことを学ぼうとする従業員はかなり少なく意欲を感じないため、まず経営層が取り組んでいる」(給排水・衛生設備工事、愛知県)といった声が代表されるように、まずはリーダー層から率先して取り組むことが導入部分においては欠かせない。 リソースの確保においても、通常業務との優先順位によってどうしても時間などの確保が難しく、「会社から言われたからやるというだけでは、消極的な対応に終始するのでは」(建物売買、神奈川県)という意見が聞かれる。こうしたケースにはリーダー層による意思決定と推進が必要であり、「1名だが、従業員に国家資格キャリアコンサルタントを取得させてリスキリングを主導させている」(学習塾、島根県)や「マイスター制度を導入して、全ての部署で技能、技術、知識の向上を計画的に進めている」(建設機械・鉱山機械製造、埼玉県)といった環境整備や制度構築の事例は、中小・小規模企業からも多く寄せられた。 また、モチベーションの維持に向けては目的と目標の設定が要となる。目的のないまま新たな技術の取得を奨励してもリスキリング自体が目的化してしまい、従業員自身が自ら取り組もうとする姿勢は醸成しにくい。リスキリングを行うことによって何を得られるのかなど、既存業務の向上や新規事業の創出など企業の戦略に基づいた目的を設定しつつ、本人のキャリアビジョンに寄り添い合意を得ながら進めていくことが欠かせない。 多くの企業から「新しい技術の習得により、他の業界・会社への転職が容易に行えるようになることに危機感がある」という懸念の声が相次いでいる。しかし、デジタル時代が急速に進展するなか、リスキリングに取り組まないリスクにも目を向ける必要がある。DXなど新たなテクノロジーに対応できる人材を育成しながら労働生産性を高め、事業を発展させられるかどうかは企業の将来を大きく左右するといえるだろう。