能登半島地震、初動対応に問題も 防災研究の第一人者は「発災からこれまで」と「これから」をどう見るか
復興には地元の産業も欠かせません。能登半島の場合は輪島塗や漁業、農業などですが、産業ごと避難先に移すこともできるはずです。過去の例も踏まえ、経験を持った人を交えて、すぐに復興に向けて議論を始めなくてはいけません。 国もただお金を出すだけではだめで、被災地のニーズを把握し、被災者に寄り添った支援をしていく必要があります。合意形成に基づいた復興構想の策定を急がねばなりません。 ▽地域防災計画の見直しを 私は阪神大震災前、神戸市の被害想定の策定に携わりました。震度5強で作った想定に対し、実際に神戸を襲ったのは震度7でした。「あなたがしっかりしていれば家族は死ななかった」という言葉もいただきました。 2010年からは石川県の被害想定策定にも関わっていますが、取りまとめを目の前にした中で今回の地震が起きました。これまで最大予測はマグニチュード7・0でした。国の断層評価の結果を待ってからと受け身になっていましたが、2007年の能登半島の地震を契機にすぐに見直すべきでした。もっと早くしていれば今回の被害は少しは抑えられたかもしれません。阪神大震災からまったく成長していないと反省しています。
しかし、被害想定はあくまでも想定です。今回の地震を被害想定の問題だけに矮小化してはいけません。「自分たちの地域は想定ができているから大丈夫」ということになりかねないからです。 石川県の防災計画では段ボールベッドや備蓄について記載されていましたが、徹底されていない避難所もありました。想定を踏まえた上で防災計画をしっかり見直し、実行していくことが必要です。防災計画の見直しは全国共通の課題です。 石川県の災害危機管理アドバイザーとして、石川県内の自治体職員への研修もしてきました。しかし今回の地震で避難所運営などに全く生かされていない場面や、引き継がれていない現状を目の当たりにしました。詰めが非常に甘かったと反省しています。現場でしっかり実行されているかを確認し、行政としっかり向き合うべきでした。 ▽悲観的に想定し、楽観的に準備する 今後、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震が起きると予測されます。誰しもが「すぐには起こらない」「自分は大丈夫」という考えを持っています。明日起きるかもしれないという緊迫感をどう持ち続けるか、人間が持つ弱さをどう理解するかが重要です。住宅の耐震はどうか、備蓄は十分か。日ごろの備えで被害は軽減できます。「悲観的に想定し、楽観的に準備せよ」です。
今回の地震で国や行政、私も含め「こうだったからできなかった」と言い訳をするのではなく「これからはこうしていく」と示さなければいけません。 災害が起きるごとに後悔ばかりがきます。でも起きたことを悔やむのではなく、もっと良い能登をつくっていくことがわれわれの使命です。これまで災害復興に失敗した例は世界中を見てもほとんどありません。人間にははね返す力があります。そこに人間がいる限り、人間は努力するからです。復興のためには全国の人々の力が求められています。