中村橋之助、座頭と大役を一心に 出演陣一新の新春浅草歌舞伎
若手歌舞伎俳優の登竜門とされる「新春浅草歌舞伎」。出演陣を一新した今年、中村橋之助が座頭として一座を率いる。今伸び盛りの29歳は「出演する全員が熱い熱い思いを持って同じ方向へ走り抜ける、パワーあふれる公演にしたい」と意気込んでいる。 2024年の公演で尾上松也や中村米吉、中村隼人らが「卒業」し、次世代の看板として橋之助に加え中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松のフレッシュな7人が栄誉ある選抜メンバーに選ばれた。 橋之助は昨年の公演の最終日、莟玉とともに、先輩の米吉から一本の青いリレーのバトンを手渡された。「そのバトンは(中村)勘九郎のお兄さんの代から松也のお兄さん、そして僕たちの代へと託されてきたものです。出演のお話があった時は、プレッシャーよりも、『一旗あげてやるぞ』とアドレナリンが出るのを感じました」と明かす。 新春の浅草には、国生時代の幼いころから出演しているが、リーダー役は初めてだ。中村芝翫とタレントの三田寛子の第1子として生まれた橋之助。「僕は性格が『ザ・長男』なんです。学級委員なども務めていたので、『こっちへおいで』と言うのは得意です。でも、一人一人に説明しながら『これでいいよね』と確実に納得してもらう、『みんなと共に』との姿勢を大事にしています」 今公演の目玉は、第1部と第2部で異なる配役によって上演される「絵本太功記 尼ケ崎閑居の場」。橋之助は第2部で主役の光秀役を務める(第1部は染五郎)。作中では、明智光秀の謀反を題材に、戦乱の世に生きる光秀一家の情愛と悲哀が描かれる。義太夫狂言の傑作であり、光秀は物語の不動の軸。立ち役の歌舞伎俳優なら誰もがあこがれる重い役だ。 「父も何度も務めています。今回この光秀役をいただいて、『演じるのはとても難しいと思うかもしれないけれど、若いころに体当たりで向き合うことによって、見えてくる風景がある』と父からアドバイスをもらいました」と橋之助は話す。「僕も父のように、舞台の真ん中が似合う、ドシッとした立ち役を目指しています。光秀役は必ず通らなければいけません」。父の言葉を胸に、橋之助は全身で大役に挑む覚悟。千秋楽まで一心に完走し、歌舞伎俳優として新たな階段を上る。 「新春浅草歌舞伎」は2~26日、東京・浅草公会堂。第1部が「絵本太功記 尼ケ崎閑居の場」「仮名手本忠臣蔵 道行旅路の花聟 落人」。第2部が「春調娘七種」「尼ケ崎閑居の場」「棒しばり」。各部の冒頭に出演俳優が交代で登場する「お年玉 年始ご挨拶(あいさつ)」がある。 問い合わせは、チケットホン松竹(0570・000・489)。【広瀬登】