ジェフ・ベゾスはなぜ「PowerPoint使用禁止」を命じたのか。その背景にあるAmazonの哲学
2004年夏のこと。当時Amazonの最高経営責任者(CEO)を務めていたジェフ・ベゾス氏は、ある決断を下して、自身の配下にある同社の幹部たちを驚かせました。それは、プレゼンテーションツール「PowerPoint」の使用を禁止するという決断です。 これにより、Amazon経営チームのメンバーは、自身のアイデアを売り込む際に、メモや、ストーリーのあるセールストークなどの手段を使わなければならなくなりました。 ベゾス氏によれば、「明快な文章とは、その裏にある明確な思考の反映であり、より良い意思決定につながる」とのことです。 けれどもこれは、ベゾス氏の数ある戦術のうちの1つにすぎません。 以下では、同氏が提唱してきた4つのアプローチを詳しく見ていきましょう。
1. 難しい事柄こそ、簡単な単語でわかりやすく説明する
ベゾス氏は1997年から2021年までの毎年、Amazonの株主に宛てて書簡を書いていました。この25年間に送られた書簡の全文、総計5万ワードにわたるテキストを、私は「読みやすさ」を測定するソフトウェアにかけて分析しました。 すると驚くべきことに、Amazonが大きく成長し、複雑な組織になるにつれて、ベゾス氏の書簡は読みやすく、わかりやすくなっていたのです。 ベゾス氏の書簡のうち75%は、読みやすさで高いスコアを記録していました。これは、中学2年から中学3年(13~15歳)までの教育を受けた人のほとんどが容易に理解できる内容だったということです。 たとえば、Amazonが電子書籍リーダー「Kindle」を発売した2007年に、ベゾス氏は書簡の中で、その主な機能をこのように説明しています。 意味がわからない単語を目にした時は、簡単に調べることができます。本の内容を検索できます。本に書き込んだメモや、ハイライトを引いた場所は、サーバー側の『クラウド』に保存されるので、消えてしまうことはありません。 Kindleは、読んでいるそれぞれの本について、今開いている場所を自動的に覚えてくれます。 目が疲れた時は、フォントサイズを変えることもできます(中略)。私たちはKindleに関して、これまでに活字になったあらゆる言語のすべての本を、60秒以内に手に入れられるようにするというビジョンを掲げています。 Kindleに関するこの説明で使われている英単語のうち92%は、1つないし2つの音節からなるものでした。このように、複雑な理屈をシンプルに表現すれば、内容のレベルを下げることなく、知恵によって競争に勝つことができるのです。