遠くへ飛ばせ 孤高の練習~ハンマー投げ金メダルを目指す 石田考正選手~
高校時代に競技開始
2024年11月半ば、愛知県岡崎市の郊外、山村地区の木々に囲まれたグラウンドで、1人で練習に励むデフリンピック・ブラジル大会(2022年)、ハンマー投げの金メダリスト、石田考正選手(38)の姿があった。重さ7.26キログラムのハンマーを飛ばし、その長さを測り、自らのフォームを確かめる。一投ごとに全神経を集中させるかのように、真剣勝負の表情を見せる。その繰り返しだ。
高校生の時にテレビ番組で室伏広治さんの活躍をみて、「おもしろそう」と刺激をうけ、ハンマー投げの世界に飛び込んだ。「重いものをうまく遠くへ飛ばすことの楽しさ」に魅力を感じ、練習を重ねるうちに、成績が上がってきた。09年に台北で開かれたデフリンピックで7位となった後、徐々に順位を上げ、22年のブラジル(カシアス・ド・スル)大会で金メダルを勝ち取った。
独学でフォームを改善
家族は、妻と3人の子ども。皆、耳が聞こえない、いわゆる「デフファミリー」だ。石田選手は、ハンマー投げの大会では、3人の子どものことを思い浮かべ「力をください」と願いながら、本番に臨むという。家族思いの一面をみせる。
聞こえる人たちとの交流では「情報量」の不足が気になることもある。「自分から尋ねないと情報が得られない。できるだけリアルタイムで話に入っていきたい」という。情報交流は、スマートフォンを使ったり、相手に手話を覚えてもらったりと、試行錯誤している。
練習はほとんど1人で行い、コーチなどの指導者はいない。自分自身のハンマー投げのフォームをスマートフォンで録画し、後で見直すという。投げた後、違和感に気づくと、ハンマーを持たずに“素振り”を繰り返し、遠くへ飛ばすために理想的な体の使い方を追求する。細かい点までこだわり抜き、改善を繰り返す。自宅では、バーベル挙げなどのトレーニングで筋力を強化している。
世界記録を目指す
24年11月29日、東京都内で開かれたデフ陸上・世界国別・地域別対抗選手権の男子ハンマー投げで、55メートル32を記録し優勝した。来年のデフリンピック東京大会へ向けて準備を重ねているが、若手選手の追い上げもあり、競争は気を抜けない。目標は2大会連続の金メダルと、世界記録の更新だ。「自分の活躍を通じて日本を明るく元気にしたい」と笑顔をみせる。