『海に眠るダイヤモンド』神様からのご褒美のような瞬間に涙 “希望の種”は現代へと続く
鉄平(神木隆之介)の日記は誰によっていづみ(宮本信子)の手に渡ったのか
きっとそれだけ彼らの生きる姿を通じて、私たちの心にも何かが育まれているのだろう。不器用にぶつかりながらも、自分の理想を追いかける。それがどんなに無理だとバカにされても、もがき続けなければ、何も変わらない時代を生きてきた強さだ。「植えたら、最後まで責任があるんですよ」とは、現代を生きる朝子こといづみ(宮本信子)が憤りながら発した言葉だった。お互いに迷惑をかけたりかけられたりしながら、みんなで生きて育っていくことに幸せを噛み締めていた彼女の過去を知るほどに、「管理不要」「コスト削減」と、さも誰の手も借りないことが最も大事なことであるかのように語られる現代を「私の欲しかった人生ってこんなだったのかしら」と憂いてしまう気持ちがわかるような気がした。 いつかお婿さんになる人と植えたいのだと見せたコスモスの種が鉄平の手に手渡されたときの幸せと、それがそのまま日記に添えられている現実に心が乱れる。植えられることのなかった「希望の種」に、朝子と鉄平に待ち受ける未来を案じずにはいられない。だが、希望はまだある。大切なものを奪われて、それでも歯を食いしばって生きてきた先人たちが未来を繋いでくれたように。その兆しが、鉄平に代わって玲央(神木隆之介/1人2役)が植えた種の芽吹きなのかもしれない。 好きな園芸に関する会社を成功させたいづみ。彼女が人生でやり残したことといったら、どうなったかわからない鉄平のその後を知ることなのではないか。驚いたことに、いづみが鉄平の日記を手に入れたのは、玲央と出会った年の春のことだという。では、なぜ今になって、そして誰によってあの日記がいづみの手に渡ったのか。あの破られたページは誰の手によってなんのためにそうされたのか。真実を知るのは怖い。けれど、そこには絶望だけではなく、いつか芽吹くかもしれないまた新たな希望の種があることを信じている。
佐藤結衣