【若乃花の目】大関陣の奮起に期待「やっぱり格が違うんだぞというのを見せつけなければ」
<夏場所展望> 大相撲夏場所は12日、東京・両国国技館で初日を迎える。日刊スポーツ評論家で元横綱3代目若乃花の花田虎上氏(53)が夏場所を展望した。 楽しみにしていた夏場所ですが、2人の注目力士の休場は残念なニュースでした。大関復帰を目指し三役に戻った朝乃山と、110年ぶりの新入幕優勝を先場所、成し遂げた尊富士。ただ、同じケガによる休場でも少し違いを感じました。 今年に入ってから朝乃山については、評論でも何度かケガが多くなると話しましたが、今場所もその通りになってしまいました。私も20代後半に巡業でケガをして尾を引きましたが、今回の朝乃山も巡業でのケガです。朝乃山も3月で30歳になりました。やはり体力の衰えが出始めます。若いうちはカバーできますが、移動疲れとか稽古環境が異なると順応するのが鈍くなります。決して言い訳には出来ませんが、朝乃山の状況はよく分かります。 一方の尊富士ですが、先場所の快挙もあり場所の盛り上がりなどを考えれば、多少の無理はしても何とか間に合わせて出る、出させる-というのが昔の考え方でした。それを師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は良しとせずストップをかけました。押し相撲は勢いに乗ったらいいが今場所はその保証がない、多少の無理を押して出させても自信をなくしてしまえば元も子もない、将来のこともある-。そんな“経営者”としての判断が働いたのではないでしょうか。尊富士は「記録より記憶」と言いましたが師匠の判断は「記憶より記録」。いい判断だったと思います。 さて、こうなると上位陣の、特に大関陣には奮起が求められます。横綱が途中休場した先場所、新入幕に優勝をさらわれたことを恥ずかしいと思ってほしい。大関も三役も番付なんか関係ないじゃないかと思われてしまいます。そうじゃないんだ、やっぱり格が違うんだぞというのを見せつけなければいけません。個人的には琴桜に感慨深いものがあります。まさか自分が生きているうちに「琴桜」が復活するとは思いもしませんでした。奇麗な名前です。このしこ名をいただいた誇り、継いだプライド、恥をかかせてはいけないという思いで、本人は自然体かもしれませんがプレッシャーに感じた方がいいと思います。上位陣では大の里にも注目です。尊富士の優勝は、自分も行ける、頑張ろうという気持ちにさせたと思います。初日の照ノ富士には当たって一気に出るしかないけど、簡単には持って行けません。逆に横綱の攻めを残せた後、どんな相撲を取れるのかに注目しています。 最後に話したいことがあります。4月に悲しい出来事がありました。同期の曙の死です。若い頃、お互いに苦しい思いをして、真剣勝負をしたからこそ土俵では憎み合って戦ってきた、言葉はなくても心を分かち合えた仲間です。「よく頑張ったね。また会おうね」。悲しい中、ひつぎに眠る彼にそう言えたのが、せめてもの慰めです。 一方で、この曙の死を無駄にしてはいけないとも思いました。よく世間では、お相撲さんは短命だ、横綱は寿命が短いなどと言われます。やはり無理をして太ることが一番の原因で、そこは食生活に問題があります。何がいけないのか、どう改善すれば、そんな風評を覆せるのか-。これは科学的にデータを取って分析するとか、協会に取り組んでもらいたいことです。そうでないと親御さんも安心して子どもを相撲界に送り出せません。1人の力士の死から目をそらさず、ぜひお願いしたいと思います。では、明日の紙面から日々の評論も、ご一読のほどよろしくお願いします。(日刊スポーツ評論家)