私たちは脳でものを見ている。赤ちゃんのベッドメリーに託された深い意味とは
私たちは脳の働きでものを見ている。ベッドメリーをじっと見つめる赤ちゃんも同様だ。視認のメカニズムを眼科医・松岡俊行さんの著書「スマホアイ」(アスコム)から紹介する。 【イラスト】こんなところでもスマホ * * * ■ 見ることから興味関心が生まれる みなさんもアンパンマンはご存知だと思います。いつの時代も子どもたちから大人気です。 ところで、なぜアンパンマンはあんなにも子どもたちの心を惹きつけてやまないのでしょうか。一説には、子どもが興味を持ちやすい色と形がその理由ではないかといわれています。 生後間もない赤ちゃんは目の機能が未熟で、6歳ごろまでに発達していきます。この発達の段階で早くに興味を示すのが、色では赤などの明るい暖色系、形では丸型だというのです。まさにアンパンマンは、赤ちゃんが好きな姿形をしていることになります。つまり見えているものに反応し、好きになったり、触れてみたくなったりするわけです。 私たちは、いろいろなものを「見る」ことで、興味が出たり、好奇心が湧いたり、注意を払ったり、集中したりできます。赤ちゃんがガラガラを目で追う。子どもが気になるものを見つけて、「あ!」と声をあげ指でさす。 見えることが当たり前だと、つい忘れてしまいがちですが、目は学習や行動や感動のいちばんの入り口なのです。こうしたことからも、目と脳、そして「見ること」と発達が深く関わっていることが想像できると思います。 ■ デジカメよりはるかに高性能な人間の目と脳 繰り返しになりますが、私たちは目だけでなく、目と脳のセットでものを見ています。網膜から入ってきた信号が、視神経へ送られ、最終的に立体感のある映像として脳が認識することで「見えた」となるのです。 目はカメラのレンズで、脳はパソコンのようなものといえば、わかりやすいでしょうか。
そのことを端的に表しているのが、これまでも紹介してきた両眼視機能です。両眼視機能は、左右の目が捉えた異なる画像を違和感なく瞬時に一枚にまとめ上げます。非常に微妙なバランスをもとに脳内で両目の情報が組み合わされ、立体感や距離感のある映像として認識されるのです。こんな機能はどんな高級デジカメにもありません。 さらに付け加えるなら、カメラで暗がりを撮ったときに出るガサガサしたノイズも、目の場合は脳でカットしてくれますし、ホワイトバランスも脳が調整しています。目のオートフォーカスはとてつもないスピードです。このように、私たちは圧倒的な性能の目と脳の連携プレーによって、鮮明な映像を「見る」ことができています。 両眼視機能をはじめ、ものを見るために必要な能力は、生まれる前から身についているわけではありません。生まれたばかりの赤ちゃんは脳内のネットワークが未熟なため、目にしているものの色も形もわかりません。そんな状態から、多彩な経験を通して目と脳がセットで発達し、視力や立体視といった機能を獲得していくわけです。 このとき重要なのは、何を見ているかが発達の度合いを左右する、ということです。 ■ ベッドメリーが子どもの能力を伸ばす理由 ベビーベッドの上で動くモビールやベッドメリーは、出産祝いの定番です。子どもがおとなしくしてくれて非常に助かりますが、このおもちゃの価値はそれだけではありません。生まれてまもなく、目の前がぼんやりと見え、ものが動いていることがわかる程度の時期に、このおもちゃが目に見える位置にあることには、脳に情報を送り、発達を促す知育の意味があるのです。 目と脳の機能は、生まれてから6歳までの間に飛躍的に発達すると前述しました。そう、臨界期です。この時期に見る、聞く、話すといった機能に必要な神経ネットワークが、外部からの刺激を通じて整備されていきます。その結果、視覚や聴覚、嗅覚、言語習得といった能力が格段に伸びるのです。