フジロック×サマソニ社長対談 運営トップが赤裸々に語る2大フェスの「今」
ブッキング裏話と今年の見どころ
―ラインナップの話でいうと、今年はそもそも世界中のフェスがブッキングに苦戦しているという言説もありました。フジとサマソニにもその影響はあったのでしょうか? 佐潟:ヘッドライナーがいなかったですよね、今年。 清水:最終的に決まっていたら「そうでもなかったよ」って言えたと思うんだけどね。自分の中のストーリーとしては、マネスキンとBMTHが1日で、もう1日はヒップホップとポップス系にしたいと思ってたんです。でも、後になってクリスティーナ・アギレラが決まったけど、トラヴィス・スコットは結局決まらなかった。フェスって1アクト抜けるだけですべてが狂うんだよね。今年は結果論でいうとすべてのフェスがそういう目に遭ってるから、相対的に見ると厳しい年だなと。 ―それはアーティスト側の事情によるものなんでしょうか? 清水:そうね。アーティストがフェスよりも自分たちのツアーを優先しているとか、様々な理由があるよね。来日公演そのものが難しくなってるのも日に日に感じている。海外のLive Nationみたいな大きいところは(日本のプロモーターを介さず)自分たちだけでワールドツアーをやるようになってきてるし。そのなかで良いアーティストをブッキングするには独自に動く必要がある。サマソニもフジロックも共通してるのは、アジアの他の地域と一緒にオファーを出して、ギャラを積み上げることでブッキングしやすくすることだよね。 佐潟:日本単独では海外のアーティストを呼ぶのはかなり難しくなってきていて、韓国や香港などをくっつけたなかにフジやサマソニがどうハマるか考えつつブッキングしてるので、そこにハマらないと厳しい。 ―清水代表は他のインタビューで、実はビリー・アイリッシュにも声をかけていたという話もされてましたし、ブッキングの裏話をいろんなところで語ってますよね。 佐潟:こんなに話すんだって驚きましたよ。 清水:俺は話すよ(笑)。正直に話した方がいいと思うよ。 佐潟:どこまで話していいのかな……。SZAの前はラナ・デル・レイをブッキングしようとしてました。コーチェラのセットを見たら大変そうだなと思いましたけど(笑)。 清水:ぜひ呼んでほしかったね。 佐潟:今の時点でも来年のことを少し考えてますけど、秋ぐらいが一番楽しい。いろんな候補を考えて「これいけるんじゃない?」みたいな。大体うまくいかないんですけど。でも、前年のうちにヘッドライナーが1組しか決まってないと焦りますね。3組のうち最後の1組がなかなか決まらないことは本当によくあります。 ―最初に決まったのはノエル・ギャラガーですか? 佐潟:そうですね。去年の秋くらいから話をしてました。その後にラナ・デル・レイを追いかけたけど決まらず。ノエルだけの発表はマズいということで、クラフトワークっていうアイデアが出て、とんとん拍子で決まった。 ―昨年、サマソニに出演したリアムもかなり盛り上がってましたし、オアシスに関してはファンの世代交代も進んでいる印象です。 佐潟:たしかに。(ノエルの単独公演を)昨年末にガーデンシアターで観たとき、若い子も多くて往年のファンだけじゃないと感じました。ノエル自体も熟練されたバンドになってきたなと思います。 清水:今年、サマソニとフジで取り合ったのはターンスタイルなんだよね。両方が今呼びたいバンドだった。あと呼びたかったのはザ・ラスト・ディナー・パーティーかな。 佐潟:彼女たちは早かったですよ。年末ぐらいには決まってました。その話でいうと実は一昨年、マネスキンを取り合ったんですよ。持っていかれちゃったからサマソニで観たんですけど、えらく盛り上がってるなと。売れるとは思ったけど、もうこんなにすごいんだと改めて認識しました。以前、清水さんと話したときに「自分たちでヘッドライナーを作っていくんだ」と言われたのは刺さりましたね。 ―マネスキンとBMTHは日本と相思相愛の関係にありますよね。弊誌でもたびたび取り上げてきましたが、そういう2組がヘッドライナーというのは素敵だと思います。 清水:そうだよね。The 1975もそんな感じで、サマソニで何度も積み上げてあそこまで行った。ポップアーティストは一気に大きくなってフェスではなかなか呼べなくなるんだけど、ロックは徐々に上がっていくことが多いし、何度も来日させることで信頼関係もできる。フェスがロックアーティストを基本としてるのはそういうことなんだよね。 佐潟:海外のマーケットに左右されず、日本独自で登り詰めたバンドを堂々とヘッドライナーにする。ゆくゆくはターンスタイルがそうなればいいなと思います。 ―この機会にプッシュしておきたい出演者はいますか? 清水:ウチはリル・ヨッティだね。今年のコーチェラも現地で観て、めちゃくちゃいいライブだった。あのボートのセットがそのまま来るのかも含めて今回一番の見どころかなと。あとは今年、一番気合を入れてブッキングしたのはタイラとピンクパンサレスかな。この2人は同じ日にきっちり出そうと思っていたので。 ―タイラに気合を入れたというのは? 清水:やっぱり「Water」のサウンドも好きだし、深堀りすればするほど単なるポップスターではないことが分かった。南アフリカのアマピアノっていう音楽性で、自分で曲も書いてる。この前のメットガラ然り、音楽だけではないスター性も一気に出てきてるので、早くから目をつけておいてよかったですね。 佐潟:フジロックは、個人的に言うとベス・ギボンズですかね。ポーティスヘッドがずっと好きなんですけど、20年以上前に来日に失敗したので。 ―1998年に来日公演が開催される予定で、バンド側も成田空港まで到着していたものの当日キャンセル。佐潟社長はその日、彼らと一緒にいらっしゃったそうですね。 佐潟:成田まで来たあとすぐ、ターミナルで見送ってきました。オーストラリアのあとに日本の予定だったんですけど、前日にベス・ギボンズの調子が悪くなって。でもフライトは変えられないから「アテンドだけしてくれ」とのことで、迎えに行って送り返したんです。その後もポーティスヘッドの来日は実現しなくて。今回はクラフトワークも決まっていたのでハマるかなと思い、声をかけたらソロアルバムも出たので。念願でした。 ―そんなドラマがあったとは。フリコのスピード抜擢も驚きました。 佐潟:2月くらいにネットが騒いでて、インディやオルタナ系のバンドでこんなに盛り上がったのは不思議で、どんなライブをするのか楽しみです。 ―フジにはエリカ・デ・カシエール、250(イオゴン)というNewJeansの楽曲制作でも知られる面々も出ますよね。先述のピンクパンサレスもNewJeansの音楽性と通じるものがありますし、双方にそういうアーティストが揃ったのは時代の流れを感じます。 清水:NewJeansは去年の音楽業界にとって一番大きな現象だったなって。特に日本においては影響の大きさを感じるよね。 ―昨年にNewJeansがサマソニ出演した際、熱中症が相次ぐトラブルも発生しました。 清水:去年問題だったのが、マリンスタジアム入場時にスポーツドリンクが取り上げられてしまったこと。それは事前に告知もしていたけど、水分補給を取り上げたことになるので大きな問題になった。ただ、それも(人工芝の品質維持のためとはいえ)かなり古いレギュレーションで、球場側とも話をして今年からは持ち込みOKにしました。給水場の設置についても話し合っているところです。 ―海外のフェスに行くと、至るところに給水場が設置されてますよね。 清水:それが当たり前だからね。ない方がおかしいくらいなので。 佐潟:苗場は暑いけどカラッとしてるし、夜は寒いくらいなので、そこは山奥の利点だと思います。改善点でいうと、場内が広いのでサマソニみたいにバスを走らせようと。 ―休憩用の専用ラウンジも利用できる新サービス「FUJI ROCK go round」ですね。フジは「金曜ナイト券」などチケットでも新しい試みをされるそうですね。 佐潟:ヘッドライナーの少し前くらいから観て、そのまま夜中を通して遊べるチケットです。仕事終わりや学校終わりに新幹線へ飛び乗ってそのまま楽しんでもらえればと、今年トライアルとしてやってみることにしました。