《小学校の隣に高層タワマンを建築》渋谷区と大手デベロッパーが組んだ再開発事業にジーンズメイト創業者(79)が憤慨「大人が子どもの安全をないがしろに」
「これは決して単なる“お金持ち同士のマンション紛争”ではありません」──渋谷区の再開発事業の内情を知る人物たちは、口をそろえて警鐘を鳴らす。このスキームが広がれば、誰もが“明日は我が身”の問題になるというのだ。再開発事業への反対運動の先陣を切るひとりが、大手衣料チェーン「ジーンズメイト」の創業者である西脇健司氏(79)だ。【前後編の前編】 【写真】34階建てのタワマンへ生まれ変わることになった1975年築・地上14階建ての「渋谷ホームズ」。他、清水建設・東急不動産共同企業体による提案書など
トラブルの焦点となっている再開発現場のすぐ近くに建つ「パークコート渋谷 ザ タワー」(以下、パークコート渋谷)の住民である西脇氏が、一連の騒動を振り返った。 西脇氏は、1987年に株式会社ジーンズメイトを設立。24時間営業という衣料品店としては珍しい施策を打ち出して、全盛期の店舗数は110を越えた。2017年に同社がRIZAPグループの連結子会社となり、西脇氏の仕事人としての日々にも一区切りがついた。妻に先立たれてひとり暮らしではあるものの、友人は多いほうだ。2020年7月に竣工したばかりの「パークコート渋谷」に引っ越して、息子家族や友人たちが訪問するのを楽しみにする生活を過ごしていた。 三井不動産グループが手掛ける「パークコート渋谷」は2020年7月に竣工した、地上39階建てのタワーマンションだ。区立神南小学校と近接している。大の子ども好きである西脇氏は、小学校の生徒たちと挨拶を交わすなど、自宅の傍で遊ぶ子どもたちから元気をもらっていたという。 そんな穏やかな生活のなか、だんだんと再開発事業について耳にする機会が増えていった。初めは「そんな案もあるのか」程度に受け止めていたが、詳細を知って仰天した。公共施設が“容積適正配分型地区計画”を利用した異例の事業だったからだ。
容積適正配分型地区計画とは、用途地域が指定された土地などにおいて、容積の範囲内で容積を再配分する仕組みのこと。容積率が低い区域の余剰容積分を他の区域に振り分けることで、良好な市街地環境の保全と高度利用を併せて行うことができる。 主に民間施設の再開発で利用されてきたスキームだが、渋谷区の再開発事業では、公共施設を巻き込んで容積適正配分型地区計画が適用される。今回の再開発事業において、神南小学校および隣接するマンション「渋谷ホームズ」は、同じ街区とみなされる。そのうえで小学校の容積の一部を「渋谷ホームズ」に振り分けて、さらに小学校の脇を通る区道を廃道宅地化した分も同マンションの敷地に組み入れるといった措置がとられるのだ。 これにより、「渋谷ホームズ」の容積率は1000%に倍増。1975年築・地上14階建ての同マンションは、34階建てのタワマンへ生まれ変わることになった。 デベロッパーである東急不動産と清水建設は、「渋谷ホームズ」の容積率アップと引き換えに、老朽化が進んでいた神南小学校の建て替え費用を負担する取り決めとなっている。しかし、新築の高級タワマンとなった「渋谷ホームズ」が生み出すであろう利益と比べると、たとえ建て替え費用を全額負担したとしても莫大なお釣りが来る計算だ。