同人誌はコミケだけじゃない、「オンリー」が作る「濃い空気」とは…「同人誌の母」が愛した「若者の情熱」
同人誌即売会は「コミックマーケット」だけではない。規模の大小はあれど、ほぼ毎週末、どこかで何かのイベントが開かれている状況だ。中にはコミケに迫る勢いの即売会もある。(文化部 石田汗太) 【写真】国内最大の同人誌即売会「コミックマーケット100」(2022年8月、東京ビッグサイトで)
名物「赤ブー投票箱」が開くもの
コミケは何でもありの「オールジャンルイベント」と呼ばれるが、もう一つ「オンリーイベント」と呼ばれる形態がある。特定のジャンルやテーマ、作品などに絞って開かれる即売会で、規模は小さいが、より空気の濃い場となる。
オンリーの隆盛は1980年代半ばから。前回でも紹介した「キャプテン翼」の二次創作ブームが起爆剤となり、多種多彩なオンリーへの道を開いた。
このオンリーを多数合体させ、一堂に集めた巨大イベント「コミックシティ」を運営する会社が「赤ブーブー通信社(以下、赤ブー)」だ。企業系即売会の雄と言われる。
7月末、赤ブー主催の「TOKYO FES Jul.2024」(東京ビッグサイト)を歩いた。実は赤ブーのイベントを見るのは初めて。理由は簡単、参加者の99%が女性だからだ。そこで売られる同人誌の多くは二次創作のBL(ボーイズラブ)漫画や小説など。同じ原作の二次創作でも、扱うカップリングによってまったく違うオンリーになる。
コミケは扱うジャンルでエリアが分かれているが、赤ブーはオンリーごとの配置なので、初心者には何が何だかわからない。しばらく会場を歩き回って、知っているジャズ漫画のソフトな二次創作BLを見つけて買った。「お好きなんですか?」と作者らしき女性は目を丸くしていた。愛のあるよい漫画だった。
再度訪れた8月末の「COMIC CITY VEGA 2024」(同)では、会場の真ん中に赤い鳥居が設置され、その下に名物の「赤ブー投票箱」があった。同人誌を赤ブーが提携している印刷所で作ると、その印刷所から投票引換券をもらえる。引換券をイベント会場で投票券に交換し、自分の好きな作品や「推しカプ」を記入して投票する。それが50票に達すれば赤ブーがオンリーを開くシステムだ。2019年からスタートし、業界の注目を集めている。