気鋭の鮨、希少な蕎麦。中田英寿が通う、和食店2選
人間のあらゆる欲求は、時に人生を突き動かす原動力となる。「僕の場合は、圧倒的にそれが知的好奇心なんです」と言うのは中田英寿さんだ。 【写真】『鮨 大矢』『蕎麦 おさめ』の料理、店内
中田英寿が伝統文化に心惹かれる理由
日本酒の蔵元やお茶の生産者、伝統工芸の作家を訪ね、日本全国を飛び回る日々。それはすべて、自らが知識を深め、長い歴史のもとに育まれた日本の文化を次世代に継承するという、使命にも似た思いからだ。 「もちろん、伝統を守りたいという気持ちはありますが、そんな大げさなことではなくて僕は日本酒にしても工芸にしても、農業にしても自分の目で見て学ぶことがとても楽しいんです」 先頃、大盛況のうちに幕を下ろしたCRAFT SAKE WEEKには、全国から中田さんと親交のある日本酒の蔵元が集結。イベントを成功に導くための道のりは平坦ではなかったが「日本酒の魅力を知り、多くの人と分かち合いたい」という想いが、常に中田さんの心を鼓舞した。 多忙の合間を縫って飲食店を訪れる際、心が惹きつけられるのもそうした知的好奇心が刺激される店。最近、訪れた神楽坂の『鮨 大矢』は、幼少期から海外に暮らし、大学卒業後に世界でその名を知られる銀座『鮨よしたけ』で修業した大矢庸二氏が腕を揮う店だ。 「設えや器使いが印象的で、正統派の江戸前という軸を持ちながら柔軟な感性で握る鮨にも独自性を感じました」 情報はあくまで正しい知識を得るための指標のひとつ。だからこそ、中田さんは自分で体感することに意味があると言う。 中田さんは以前から「食事はその楽しさや価値をシェアするもの」と話していた。和食でもイタリアンでも焼肉でも、その時間を分かち合うことで充足感を得られるというのは変わらないが、その中田さんがひとりでも通う店が、西麻布から目白に移転した『蕎麦 おさめ』だ。昔ながらの方法で栽培される在来種の蕎麦を使用する店は東京でも少なく、さらにその蕎麦を毎日使う分だけ、製粉する。 「移転前から昼にひとりでうかがうこともありました。冷たいお蕎麦はせいろ、粗挽き、玄挽きと3種あるのですが、僕はだいたい全部いただきます。産地によって味わいや香りが違うのはワインにも共通する部分がありますよね。在来種は、その土地固有の品種なので風味に個性があります。 僕は蕎麦の生産者を訪ねることもあるので、その情景を思いだすと味わいはより深くなる。食べることは知るということ。人生の何千か何万分の一のうちの一日が楽しくなるかどうか、心豊かに過ごせるかどうかは知識をどれだけ持つかで変わってくると思います」 自分の目と心のフィルターを通して、中田さんが食を追い求める情熱は、いっさいブレることはない。