鹿島建設が入社3~5年目に実施した「アイカンパニー研修」とは?
■ プログラム 1 1つ目のプログラムが、「キャリアデザインの必要性の理解」だ。ポイントは、自己特性を言語化することである。 この際に、土台として伝える考え方が「アイカンパニー」だ。企業が生き残りをかけて戦略立案や商品力強化などで市場優位性を模索するように、個人の成長もまた、一人ひとりが「いかに選ばれ続けるプロフェッショナルになれるか」が重要になる。 そのことを「アイカンパニー(自分株式会社)」というメタファーを使って理解してもらう。企業と同じように、個人も「自分株式会社」を設立し、個人として市場優位性を発掘していくことの重要性を伝えるプログラムだ。 アイカンパニーの考え方では、個人が置かれている環境を以下のように定義している。 市場:業界、所属企業 顧客:取引先、上司 競合:同僚、他のビジネスパーソン こうした環境において個人として選ばれ続けるためには、次の3つの観点を踏まえて、アイカンパニーの「経営戦略」を立案する必要がある。 経営理念(やりたいこと):経営上、決して外すことができない大切な価値・こだわりは何か? 市場ニーズ(やるべきこと):市場や顧客から期待されていることは何か? 技術力(やれること):過去の経験から獲得したスキルは何か? この3つの観点が重なり合うところに、「引力」に引っ張られることのない個人としてのビジョン(経営目標)が生まれるのだ。アイカンパニーの経営者として、個人は、常に周囲の期待や自身の志やこだわり、スキルをアップデートしていかなければならない。
これは、前述の「スキルの棚卸作業」である。自分自身を1つの価値創出体とみなすアイカンパニーの概念を用いて、自分を取り巻くステークホルダーとの関係性の中で培われてきた自分自身のスキルや、自分が置かれている現状を俯瞰的に見定める作業である。 One-pattern 引力に引っ張られやすい状況において、これまでのアイカンパニーとしての社史を振り返ることで、今ある自分というものが当たり前であると思わせない働きかけが重要なのだ。 ■ プログラム 2 2つ目のプログラムでは「現状のアイカンパニー理解」を行う。ポイントは、定量情報と定性情報の両側面から、自身の状況を相対的に捉えることだ。 このプログラムで活用するのが「360度サーベイ」である。研修前に、仕事への自分の姿勢やスキルなどについて、上司や同僚から5段階で評価してもらう。 このサーベイの結果に向き合うことで、自身が発揮している組織人格としての「役割演技力」を定量的に把握することができる。さらに、研修グループにおいて相互にアドバイスをし合うことで、自分自身の価値観や特性を言語化していく。 360度サーベイに加え、「上司からの手紙」というコンテンツもある。普段から、若手社員を最も見ている上司に「手紙」を書いてもらい、それを研修時に渡す。日頃は、業務の遂行状況の確認や支援など、短期目線でのコミュニケーションが多くなりやすいからこそ、上司からの手紙では、本人の長期的な成長を期待する言葉を書いてもらう。 2つ目のプログラムの取り組みに共通しているのは、他者からの期待に触れることである。 これはまさに「評価を客観視させる」活動に通じる。この時期になると、仕事に対する慣れからくる慢心がある。 日々の上司・部下の関係性からのフィードバックではそこまで響かない言葉であっても、360度サーベイのように多くの関係者から、定量的にフィードバックを受けると、客観的に自分自身を見つめなおさざるを得ない。 そして手紙のように、じっくりとメンバーのことを考えて書く場合は、組織人格としての役割演技に対する指摘ではなく、そのメンバーのキャリアを踏まえて全人格的にフィードバックすることが自然と求められる。上司としてもそのメンバーを見つめなおす良い機会になるであろう。