歯学博士照山裕子の100歳まで食べられる歯と口の話

「100歳まで食べられる歯と口の話」 ＜13＞ 　運動中は口呼吸になりがちで、おのずと口が乾燥します。唾液が流れないということは、歯や粘膜に潤いを与えて汚れを洗い流す働きが不足する、すなわち虫歯や歯周病といった口のトラブルを招きやすくなります。こうした状況でさらに、糖分を多く含んだスポーツドリンクやゼリー状の栄養補助食品を摂り続けると、口の中は危険信号です。歯に痛みがあれば、いざという場面で十分な力を発揮できないことはいうまでもありません。集中力や瞬発力が求められるアスリートはもちろん、一般のランナーなどもこうしたリスクを踏まえて運動する心がけが大切です。 　日本スポーツ協会では、1時間以上の運動をする場合、水100ミリリットルあたり40～80ミリグラムのナトリウム（0・1～0・2％の食塩）＋4～8グラムの砂糖（4～8％程度の糖質）が含まれた水分を、200～250ミリリットルずつ小分けにして15分ごとに補給することを推奨すると書かれています。特に運動量が多ければ多いほど糖分を増やしてエネルギー補給しなければなりませんが、その分、口の中はずっと酸性状態に傾いています。唾液もカラカラで、中和する作用が弱まっているからです。このため、可能な限りこまめに水で口をゆすぐなどの対応が、歯を守る一工夫です。 　フルマラソンのような激しい運動をした後は風邪やインフルエンザ等の上気道感染を招きやすいという報告もあります。体がそれだけ消耗し、抵抗力が下がっているという証拠でもあり、過剰な活性酸素が発生することも想定されます。歯周病は体中のあらゆる因子が複雑に絡み合って発症すると言われていますが、その1つには通常全身を守るべき抗酸化防御機構のバランスが崩れることも関与しているのではという学説もあります。ハードな運動が習慣である人ほど留意してもらいたいのが、やはりオーラルケアなのです。