“経済界の風雲児”橋本ひろしの半生を舞台化「今、僕は六本木の交差点に立つ」 なぜ実業家は歌い始めたのか
実業家でシンガーソングライターの橋本ひろしの半生をベースにした舞台「今、僕は六本木の交差点に立つ」が面白い。4日に東京・天王洲 銀河劇場で初日を迎えたが(8日まで上演)、評判も上々のようだ。そもそもモデルとなった橋本ひろしとは、どんな人物なのか。映画やドラマ、舞台といった芸能の表現を通して現実の人物へ興味をひかれるケースは少なくないと思われるが、今作はその典型的な例のひとつと言えそうだ。
音楽でメジャーデビューも果たす
モデルとなった橋本ひろしは長野県の出身で、現在67歳。実に20数社からなるキョウデングループを率いる“経済界の風雲児”で、昭和KDEをはじめ、パソコンメーカー・SOTEC、大手スーパー・長崎屋、大江戸温泉物語など破綻寸前の企業を買収して次々と再生に導いた手腕で知られる。 事業で莫大な富と名声を手に入れた橋本だが、50代に入ると突如として音楽活動を始め、六本木のライブハウスで歌い始めた。
音楽活動のベースとなっているのは、私財10億円を投じて結成した7人組インディーズヴォーカルグループ・橋本ひろしと冒険団。インディーズチャートで1位を獲得するなどしたが解散し、2007年6月20日にリリースしたアルバム「たまるか たまるか たまるか」でソロデビューを飾った。 以後、プロデューサー・ハリー吉田との出会いにより音楽的才能を開花させ、ライブハウスでのソロライブを行うようになるが、08年11月リリースのシングル「おっさん辛いね泣きたいね」が大手着うたサイト・レコ直の演歌歌謡曲部門でデイリー1位、週間1位、12月度月間総合チャート3位を獲得とスマッシュヒット。09年7月にはユニバーサルシグマよりメジャーデビューも果たしている。
そんな橋本をテーマに、中津留章仁の脚本、赤澤ムックの演出で描かれた今作。橋本は自身のブログで「別途ご案内のとおり、私の半生を綴った舞台が公演されるみたいです。他人事のような表現で恐縮ですが、主催のネルケプランニングの松田会長が私のライブに何回かお見えになり、このような私にとっては大それた舞台を創って頂きました。私は内容も知らされていませんし、出演もしませんし、物理的にも企画にも一切絡んでいませんので、どのようになるか…。いずれにしても私如きをテーマにして頂いて世も末だな、というのが偽りの無い気持ちです」などと恐縮ぎみにつづっているが、主演を務める俳優・中村誠治郎のエネルギー全開の芝居が橋本のフルスロットルな人生模様とシンクロしているかのようで、ぴたりと役にハマっている。有澤樟太郎、定本楓馬、山寺宏一ら共演陣の芝居も充実している。
経済界の風雲児が、なにゆえ “歌う”ことにたどり着いたのか? 興味深い作品に仕上がっている。 (取材・文・撮影:志和浩司)