苦労の連続…超小型衛星「蓬莱」待望の宇宙へ JAXA引き渡し来春発射 静岡大の院生「達成感」
静岡大工学部が開発した超小型人工衛星「蓬莱(ほうらい)」(STARS―Me2)が12月上旬、打ち上げ準備のため宇宙航空研究開発機構(JAXA)に引き渡された。現時点の計画では、米スペースXのロケットで2025年春、高度約400キロを周回する国際宇宙ステーション(ISS)に運ばれ、軌道投入される。設計に携わった学生は「しんどいことばかりだったが、達成感がある」と打ち上げを心待ちにしている。
機体の形状などに関する厳しい要求に加え、開発中にコロナ禍にも見舞われ、静大衛星の中でも開発から完成までひときわ時間がかかった蓬莱。1辺10センチの箱形で、内部の金属テープを宇宙空間で伸展することで、人や物資を宇宙ステーションに運ぶ「宇宙エレベーター」のケーブル伸展技術や人工衛星などの残骸「宇宙ごみ」の除去技術の確立に向けた実証実験を行う。 開発が始まったのは2019年秋。愛知県の企業の協力を受けて外枠のフレームを一体型にすることで強度を増したのが特徴。愛称は、大井川に架けられた世界一長い木橋に由来する「蓬莱」と決まった。 コロナ禍で学生たちの対面が制限されて開発は遅れた。設計の主な担当者で大学院修士2年の葛西未来さん(23)は学部生のときから蓬莱に携わった。質量、形状、寸法に関するJAXAからの要求は厳しい。コロナ禍で企業担当者とも会えず、葛西さんは「部品を実際に組んだら想定したように動かず、設計からやり直しということもあり、苦労の連続だった」と苦笑する。 一つ一つ課題を乗り越え、2024年夏に機体が完成。12月に入って指導教官の能見公博教授とともに筑波宇宙センター(茨城県つくば市)で引き渡した。能見教授は「予想外のトラブルに対処し、打ち上げ直前までこぎ着けた」と評価する。 葛西さんは来年4月に民間企業に就職するため、蓬莱の運用にかかわることができないのが心残り。現在は衛星設計に向き合った経験を修士論文にまとめている。蓬莱の今後は研究室の後輩らに託す。「自分たちが作った物が、宇宙に運ばれるというのは本当に貴重な経験」と語る。