【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由
中国は一方で自国経済の保護に汲々としながら、他方で米国を保護主義だと世界貿易機関(WTO)に苦情を提示する。フィナンシャルタイムズ紙のコラムニストで副編集長も務めるラナ・フォルーハーは、4月1日付けの論説‘China’s hypocrisy on trade’で、中国の態度は偽善でありWTOは新たな制度を構築すべきだ、と論じている。要旨は次の通り。 中国政府は、バイデン政権の看板政策であるインフレ抑制法に異議を申し立てるためにWTOに提訴しているが、正気なのかと言いたい。なぜなら、中国の経済モデル全体が二重基準の恩恵を享受しているからだ。 他の国々は、中国の特異で野卑なまでもの差別的な対外取引政策を甘受させられているからだ。にもかかわらず中国は、米国政府がクリーンエネルギーの生産者に対し税額控除という支援策を実施すれば、それをWTO規律違反だと言って反対の狼煙を上げる。そんな中国の偽善に気付かない者はいない。 中国経済は結局、クリーンエネルギーにせよ、電気通信にせよ、人工知能にせよ、そうした戦略的産業に対しては数十年にわたり補助金と保護主義的な囲い込み政策を実施してきている。それらを中国は、ひた隠しに隠してきている。 中国が「保護主義」を問題視するのは、米国や欧州が自国の産業を支援するために関税や補助金を課そうとするときだ。これは、気候変動への対処や労働者のためのグリーン経済への移行といった正当な理由があっても問題視する。 ところが、中国の保護主義政策は、単なる現状維持だと大目に見られている。中国の国家資本主義の出発点だと単純に理解されている。西側諸国は、切歯扼腕(せっしやくわん)しながら、この構図が変わるのを待っている。
新たなアプローチがなければ何も始まらない。中国の政治経済の全体像は、WTOの自由貿易の前提に反している。新興国も自由市場の規律にきちんと従うべきだというワシントン・コンセンサスにも反している。 漸く最近になって、西側諸国の政策立案者は、事実をありのままに見つめ始めることが重要だと考えるようになった。われわれは今、転換点に立っている。 WTOのルールは多くの場合、中国を除くすべての国にとっての束縛であるという真実が、益々明瞭になりつつある。 この事態を改善する方策は、現在のWTO制度の中には存在しない。ゼロからスタートし、米国、英国、カナダ、豪州、中国、ドイツ、韓国、台湾といった大きな赤字国と黒字国の中核グループを結集し、確固とした目的に立って紛争を処理できる制度を構築するべきだ。 新しい制度の規律は、多様な政治経済主体を許容するものでなければならない。各国は世界貿易に従事している一方で、自国の経済的政治的安定を守る必要があり、権利があることへの理解がなければならない。 この原則は普遍性がなければならない。それこそ中国の発展過程から得られる最大の教訓だ。 従来の制度は既に崩壊している。安い資本がコストを度外視にして安い労働力を探すという経済モデルは限界に来ている。医薬品不足とWTOの檻の中の戦いが延々と続くだけだ。 当然のことを当然と認めようとしない政府や産業界に対する国民の不信感は高揚している。やはりわれわれは別の道を模索すべきだ。 * * *