「なぜ菅野智之を開幕投手にしなかったのか」92歳の広岡達朗が巨人・阿部新監督体制の初シーズンを検証
2024年、阿部慎之助新監督体制となった初めてのシーズンで、巨人は4年ぶりのリーグ優勝を果たした。 【画像】広岡達朗が辛口総括した著書『阿部巨人は本当に強いのか』 しかし、クライマックスシリーズではDeNAに破れ、日本シリーズへの出場はならなかった。 敗因はどこにあるのか。巨人のOBで、セ・パ両リーグ日本一を経験した名監督・広岡達朗さんが辛口総括をした著書『阿部巨人は本当に強いのか 日本球界への遺言』(朝日新聞出版)から一部抜粋・再編集して紹介する。
成功した大城・岸田・小林の正捕手争い
私が注目していた新生・阿部巨人はどうだったか。日替わりでなんとか前半戦をトップで折り返したが、4位・阪神までのゲーム差は3.5。首位争いに残っていたのは、巨人が強くなったというより、これまでが弱すぎたのだ。 新監督の阿部は目先の白星を追って苦労したようだが、私に言わせれば、巨人はこれまでに蓄積された戦力があれば今年もダントツの独走でなければおかしい。 それでも、新監督になって変わったことがないわけではない。前年までの原辰徳監督は「打てる捕手」を求めて大城卓三ばかり使っていたが、今年は序盤からバッティングのいい岸田行倫と、インサイドワークと強肩のある小林誠司にもチャンスを与えて正捕手の座を競わせた。 私は原監督の時代から、「キャッチャーの役割は打つだけではない。一番大事なのは投手を育てる能力だ」と主張してきた。たしかに小林はもう11年目のベテランで、打率が2割に届いたのは2019年が最後。原時代最後の2023年は21試合出場で打率.125だった。 「これでは使えない」という声は多いだろうが、守りの能力が高い小林が打てないのなら、打撃コーチが打てるように教えたらいいではないか。小林だって、2019年シーズンは92試合に出場し、打率.244の成績を残している。
頭角を現したのが岸田だった
岸田も社会人野球の大阪ガスから入団して6年目の28歳で、打力は一定の評価があったが、これまでの最多出場は2023年の46試合だった。 捕手出身の新監督にチャンスをもらった2人のうち、新たに頭角を現したのは岸田だった。88試合に出場し、打率.242、本塁打4、二塁打10、得点圏打率.203。 小林も打率は.152ながら42試合に出場し、前季の21試合から倍増している。6月以降は出場機会が減少し、おもに相性のいい菅野(智之)とバッテリーを組んだ。 この阿部のライバル作戦は、前年まで正捕手だった大城にも刺激を与えた。 今季は開幕から調子が上がらず、5月は3試合出場でノーヒットだったが、6月に一塁に入ってから目が覚めたように復調した。とくに6月23日以降、3番・ヘルナンデス、4番・岡本(和真)、5番・大城のクリーンナップが定着してからは巨人の白星も多くなった。 正捕手争いの焦りとストレスから解放されて、バッティングに集中できたのかもしれない。
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