ビットコインを支える「ハッシュキャッシュ」誕生の経緯とは【アダム・バック氏インタビュー前編】
暗号技術への興味のきっかけ
──暗号技術の研究だけでなく、キャリアの初期にはデイトレードを行っていたと聞いたことがある。 バック氏:コンピュータサイエンスを学んだが、16歳から18歳にかけては経済学も学んでおり、自由市場理論における経済や、自分の資産を管理する方法などについて理解しようと考えた。 オンライン証券のイー・トレード(E*Trade)で取引を始め、さまざまな株を買った。もちろん、初期には間違いを犯したり、短期売買も行った。だが、時間が経つにつれて、バリュー投資家になり、デイトレーダーではなくなった。つまり、企業と企業が作る製品について理解したいと考えるようになった。「製品は不況になっても需要があるものだろうか」「5年後にも需要があるか」というような考え方だ。 長期的な投資というマインドセットは、ビットコイン投資を考えるときにも有利になる。ビットコインはボラティリティが高く、最初の取引経験がビットコインだと取引の基本を学ぶことは難しい。ほとんどの人にとっては、ビットコインをバリュー株と同じように取引するのが良いだろう。 これは、歴史的にもビットコイン市場に参加する安全な方法だと証明されている。いわゆる、ドルコスト平均法であり、長期保有だ。そうでなければ、感情的な、ジェットコースターのような意思決定プロセスに陥ってしまう。ドルコスト平均法で長期保有し、ボラティリティについて考えないで済むようにするのが良いだろう。 ──暗号技術に興味を持った理由は? バック氏:大学に入る前から、コンピューターセキュリティに興味があった。ネットワークや暗号化プロトコルが権力のバランスをどのように変化させ、物理的な世界におけるプライバシーを取り戻すことができるかについて考えた。現金決済ではプライバシーが守られるが、オンラインではプライバシーを失ってしまう。テクノロジーを使ってプライバシーを回復させることは非常に面白いと感じた。「サイファーパンク」(国家による暗号技術の規制に反対する運動)にも興味があった。 興味深いプロトコルの1つは、電子マネーだ。電子マネーを使えば、プライバシーを確保しながら、インターネット上で決済できる。だが電子キャッシュシステムの設計はきわめて難しく、初期のシステムは集中型であり、そのせいで失敗した。 分散型電子キャッシュシステムの設計は、技術的にさらに困難で、私をはじめ多くの人が取り組んだが、すべてを解決するソリューションを見つけることはできなかった。そんなときにサトシが『ビットコイン: P2P電子通貨システム』を発表した。 ──サトシの論文で言及され、ビットコインマイニングにも活用されている「ハッシュキャッシュ」という名前はどのようにして生まれたのか? バック氏:電子メールのプライバシーを確保するリメーラーを運用していたが、多くの人がリメーラーでスパムメールを送るようになった。通常、スパムメールは送信者のIPアドレスやメールアドレスをブロックするが、リメーラーなので送信者は特定できない。 私は何が真の問題かを考え、原因は電子メールが無料なことにあると考えた。もしメール送信にコストがかかれば、スパムメールはなくなるだろう。だから「メールを受け取るためには、受信者が送信者から料金を受け取るようにすればよいのではないか」と考えた。だが当時、スケーラブルな電子キャッシュの構築に成功した者はおらず、電子キャッシュはハードルが高いので、キャッシュの代替案を作ることにした。それがハッシュキャッシュ(Hashcash)だ。 ハッシュキャッシュはいわば、切手のようなもので、生成には作業が必要になるが、受信者は消費可能な価値として受け取るわけではないので、キャッシュとしての特性は備えていない。だが、メール送信にコストがかかることになり、スパムメールを減らすことができる。ある意味、キャッシュの代替物なので「ハッシュキャッシュ」と名付けた。 ※後編は明日公開予定。ビットコインとの関わりについて、さらに聞いています。 |インタビュー:渡辺一樹|文:CoinDesk JAPAN編集部|写真:多田圭佑
CoinDesk Japan 編集部