もう皮膚をかかなくて済む!? 錯覚でかゆみを軽減するデバイスが爆誕! 最先端サイエンスで迫る! かゆみとは何か?
かゆい所をかくのは気持ちいい。ただ、かけばかくほどかゆくなり、次第に皮膚が傷つき悪化する。このスパイラルに陥ると、脱するのはなかなか難しい。だが、皮膚を傷つけずにかゆみを緩和するデバイスが昨年製品化された。その謎だらけのメカニズムとは? 【写真】かゆみ緩和デバイス「サーモスクラッチ」 * * * ■患部に当てると痛っ......熱い? 皮膚をかかずにかゆみを軽減する。そんな不思議なデバイス「サーモスクラッチ」が製品化された。開発元の大阪ヒートクール社は、役員全員が大学に籍を置く現役研究者たちだという。 大阪府箕面市のオフィスを訪ねると、試作機を含めたさまざまなサーモスクラッチがあった。どれもペンケースほどのサイズで軽い。かゆい場所に押し当ててスイッチを押すと、かゆみが緩和されるという。いったいどういう仕組みなの? 「人間の錯覚を利用するんです」と答えてくれたのは、同社代表取締役の伊庭野健造さん。 「かゆみって、痛みなどよりも『弱い』感覚ですよね。腕がかゆくても、そこをぶつけたりして痛みを感じると、かゆみが打ち消されます。あるいはかゆい所に氷を当てると、冷たさの感覚がかゆさを覆い隠しちゃいますよね。 それを利用して、やけどしそうな熱さの感覚を与えることでかゆみを緩和するのがサーモスクラッチです。熱さではなく痛みと感じる人も多いですね」 えっ、やけどするほどの熱さ!? 「もちろんそれは大丈夫。なぜなら、サーモスクラッチが与える熱さや痛みの感覚はあくまで錯覚で、皮膚はまったく傷つかないからです。試してみてください」 ビクビクしながらサーモスクラッチの先端にある金属部分を腕に当て、スイッチを押してみた。すると......痛っ! いや、熱い? 耐えられないほどではないが、氷に触れたときの感覚にも近い刺激が走る。だが、皮膚は無傷。なんとも不思議な体験だが、□が二重になったような金属部分に秘密がありそうだ。 「サーモスクラッチは『サーマルグリル錯覚』と呼ばれる錯覚を応用しています。これは体が温度を間違って感じてしまう錯覚です。 例えば15℃の物体と40℃の物体をごく近くに並べて手で触れると、やけどしそうな熱さを感じます。実際は40℃に過ぎないのに熱さを感じるのは、脳が『40℃と15℃の温度差』を『皮膚と物体との温度差』だと錯覚してしまうから。 体温が36℃だとすると、40℃~15℃の25℃を体温にプラスした61℃だと感じてしまうんですね。だから40℃とは思えない熱さを感じるんです」 サーモスクラッチの場合、二重の□の外側を40℃、内側を15℃にしてある。これらを同時に皮膚に当てると非常に熱く感じ、かゆみが覆い隠されるというわけだ。 「サーモスクラッチが与える感覚はあくまで錯覚で、人によっては冷たさや痛みだと感じたりもしますが、いずれにしても強く鋭い刺激でかゆみが緩和されます」 不思議なことに、一連の説明を受けた後に使っても、やはり熱く感じる。 かゆみが厄介なのは、かくこと自体は気持ちいいのだが、だからといってかきすぎると皮膚を傷つけてしまうこと。しかしサーモスクラッチを使えばその悪循環から抜け出せるわけだ。年内の商品化を目指しており、価格は1万円前後を想定しているという。 ちなみに、大阪ヒートクール社はサーモスクラッチ以外にも生理痛を疑似体験できるVR体験デバイス「ピリオノイド」などを開発している。これも医療などの分野で使われる筋電気刺激を応用したものだ。 「実は僕の専門は医療ではなく核融合で、ほかのメンバーの専門分野もバラバラ。そんな研究者たちが、さまざまな研究の知見を社会実装しようと立ち上げたのがこの会社です」