日章学園の高岡伶颯がピッチを離れて思うこと。サウサンプトン加入内定の高校No1アタッカーは“最後の夏”に貴重な経験を積んでいる【総体】
「自分なんてまだまだ全然弱い」
7月27日に幕を開けた令和6年度全国高校総体(インターハイ)の男子サッカー競技。国内外のクラブが熱視線を送る神村学園のFW名和田我空(3年)など、注目すべきタレントが数多くいるなかで、高校No1アタッカーの呼び声が高い日章学園のFW高岡伶颯(3年)はピッチに立てていない。 【PHOTO】コンセプトはFIRE(炎)! 日本代表が新ユニホームを発表! 久保建英、長谷川唯ら選手着用ショット! サウサンプトン加入が内定している主将はメンバーに登録されているものの、左膝を痛めた影響でベンチから仲間たちの戦いを見守っているからだ。 怪我をしたのは今から1か月前の6月29日。U-18高円宮杯プリンスリーグ九州1部の福岡U-18戦(1-2)の前半だった。飛び込んできたGKをかわそうとした際に着地がうまくいかず、左膝を捻ってしまう。 負傷した瞬間は「どれくらいの症状なのか分からなかった」というが、診断の結果は内側靭帯の部分断裂。復帰は9月初旬となり、インターハイでのプレーは叶わなくなった。 高岡にとって、大きな負傷は中学生以来の出来事。焦りなどがあってもおかしくないが、平常心で自分と向き合えていると本人は話す。 「いつもは疲労が残った状態で身体作りに励んでいたけど、今は集中して取り組めている。(時間があるので)睡眠の質や量にも気を配れているのは大きい」 特にプラスになっているのは、身体をプロ仕様にアップデートできる期間になった点だ。高岡は言う。 「怪我をしたけど、サウサンプトンに行く前に身体作りができる時期。毎日、腕立て伏せを400回したり、食べる量とかにも気を配っている。身体のために何が一番良いのかを考えて、取り組めている。身体のために工夫する時間ができたので、復帰した時にすぐプレーできるように心掛けています」 実際に昨秋のU-17ワールドカップではフィジカル面で課題を痛感。とりわけ、グループステージ第2戦のアルゼンチン戦(1-3)では1ゴールを奪ったものの、当たり負けするシーンも少なくなかった。 「パワー不足は感じた。世界を見れば、自分なんてまだまだ全然弱い。(165センチだけど)身体が小さくても、当たった時にこいつはサイズがなくても強いし、速いと思われるような選手になりたい」。高岡の言葉からも、課題が見て取れる。 成長スピードを加速させるために準備を進めているが、それはプレー面だけではない。人間性をさらに高めるうえでも重要な時期を過ごしており、チームのために汗を流すことでリーダーシップに磨きをかけている。 現状で高岡はピッチに立つ可能性はほとんどなく、本来であればインターハイの登録リストから外れても不思議ではない。だが、原啓太監督は精神的支柱としてメンバー入りを決断した。 部員たちもベンチにいてほしいという声。その存在感は、代わりにキャプテンマークを巻くCB吉川昂我(3年)が「ピッチ内外でチームのことを一番に考えてくれる。そのために積極的に動いてくれる存在」と言い切るほど。スタッフとチームの要望により、仲間を外から支える役割を担うことになった。 28日の鹿島学園戦(3-2)でも仲間のために奔走。水を準備し、機を見て声をかける高岡の姿があった。だが、原監督はまだ物足りないと注文をつける。 「チームをまとめる立場なので、一生懸命に自分のことだけをやっていてはいけない。チーム全体のことを把握することは、例年のキャプテンに比べてまだまだ足りていない。それは本人にも伝えている。怪我をしている状況だからこそ、いろんなことを判断できるようになればいい」 戦列を離れた時期を決して無駄にしない――。ピッチ内外で多くのことを学び、トライを続けている男は“最後の夏”に貴重な経験を積んでいる。新たな自分に出会うために挑戦を続けていく。その先にはきっと、まだ見ぬ未来が待っているはずだ。 取材・文●松尾祐希(サッカーライター)
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