【2025年の年初めに見たい映画】巨匠アキ・カウリスマキ監督の、愛あふれる映画館の物語
発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための新作を厳選! いま見るべき新作映画3選
アキ・カウリスマキ監督が文字通り手づくりした、愛あふれる映画館の物語『キノ・ライカ 小さな町の映画館』
『浮き雲』『希望のかなた』、昨年の『枯れ葉』等の珠玉作によって、世界の映画ファンを魅了し続けてきたアキ・カウリスマキ監督。『キノ・ライカ 小さな町の映画館』は、この人気監督がフィンランドの首都ヘルシンキから車で1時間の小さな町カルッキラに、初の映画館を作る様子を追ったドキュメンタリーだ。昨年公開された映画『枯れ葉』にも登場したカルッキラには、深い森と湖が広がり、鉄鋼の町として栄えた頃の工場が立ち並ぶ。その閉鎖された一棟を借り受けたカウリスマキ監督は、リサイクルの木材や鉄、家具を使って仲間たちと映画館を手作りする。そんな過程や町の人々の興奮を掬い取ったフィルムには、盟友ジム・ジャームッシュ監督や『コンパートメントNo.6』のユホ・クオスマネン監督も登場する。 2017年の『希望のかなた』を最後に監督引退を表明していたカウリスマキ監督だったが、長引く戦争を前になすすべのない世界を前に引退を撤回して2023年に復帰し『枯れ葉』でぬくもりを届けてくれたが、映画館キノ・ライカは40年近く住むこの町に感謝の気持ちを贈りたいというのが発端だったという。かつての過酷な労働の記憶が残る場所を、新たな町のコミュニティ・センターへと変え、映画を見て仲間と一杯やりながら語り合う映画館のある暮らしをプレゼントしようなんてなんとも心憎い。
カルッキラに1年間滞在し、開館作業を手伝いながらカメラを回したクロアチア人監督ヴェリコ・ヴィダクによるドキュメンタリーの本作は、カウリスマキ作品同様に「真の幸福とは、心の豊かさとは何か」を映し出しながら、観る者を映画がもたらす喜びに浸らせる。 『キノ・ライカ 小さな町の映画館』 ユーロスペースほか 全国順次公開中 BY REIKO KUBO