河村たかし名古屋市長が「衆院選出馬」 名古屋城復元投げ出しに批判
名古屋市の河村たかし市長(75歳)が10月1日、半年の任期を残して市長を辞職し、27日投開票予定の衆議院議員選挙に出馬すると表明した。看板政策の名古屋城天守の木造復元が市民討論会での差別発言問題で1年余り「凍結」され、9月にまとまった検証委員会の最終報告で市長の「パワハラ疑惑」が指摘されたばかり。「投げ出しだ」との批判が強まっている。 「木造復元」構想はそもそも、2009年4月に市長に初当選した河村氏が、現在の鉄筋鉄骨コンクリート造天守を「耐震改修」する元々の計画をひっくり返して打ち出したものだ。15年9月には「東京五輪・パラリンピック開催の20年に間に合わせる」と宣言。16年4月の熊本地震で熊本城が被災すると18年5月、「震度6強程度の大地震で倒壊、崩壊する可能性が高い」として現天守を立入禁止にしてしまった。すでに6年になる。 ところが現天守の解体、木造復元に必要な文化庁の許可をいまだに得られないどころか申請さえできていない。「危機的な状態」と有識者が警告する江戸時代からの石垣の保全を後回しにしたツケだ。 バリアフリー問題も未解決のままだ。「史実に忠実な復元」のためとして河村市長が18年5月に正式決定したエレベーターを設置しないという方針に反発が強まり、日本弁護士連合会は22年10月、最上階までのエレベーター設置を求める要望書を市に提出した。 ところが市は同年12月、公募の結果として車いす1台と介助者1人しか乗れない「垂直昇降設備」の採用を発表。「できるだけ上層階まで目指していきたい」と市の担当者は説明したが、河村市長は「1、2階までだったら、(障害者差別解消法が定める)合理的配慮と言えるのではないか」と発言、大きな食い違いを見せていた。 混迷の中、昨年6月に行なわれたのが市民討論会だ。エレベーター設置を求める車いすの男性に、中年男性が「どこまで図々しいのって話で、我慢せいよ」とかみついた。にもかかわらず河村市長は「熱いトークもありましてよかったですね」と挨拶して閉会した。 市の対応に批判が強まり、昨年8月にスタートした市の検証委員会(委員長・田中伸明弁護士)は最終報告で市に対し「市長・副市長をはじめとした関係者の人権感覚の希薄さが差別事案の根源的な背景・遠因となっていたものと判断する」と指摘。背景に市職員の苦悩や葛藤があったとし、職員へのヒアリングで、打ち合わせの場での市長や副市長の発言を「パワーハラスメント」と受け止めた職員がいたことを明らかにした。