また出たアナログ!登録解除は「紙」で…「マイナ保険証」最大の問題点はマイナンバーが使えないコト?
マイナ保険証の信頼性アップも医療DXも「特別法」の制定次第
一方、マイナ保険証の利用を入り口とした医療DXの状況はどうなっているのだろう。 たとえば、患者がマイナ保険証で受診すると、診療や薬剤などの医療情報がデータベースに蓄積される。医師や薬剤師はその情報を閲覧でき、患者本人もマイナポータルから見ることができる。しかし医療情報は1ヵ月に1度しか更新されず、直近1ヵ月の情報は確認できない。 「今の時点で閲覧が可能なのは『レセプト情報』、つまり『診療報酬のデータ』ですね。医療機関は1ヵ月ごとに締めて保険組合に請求するので、データは1ヵ月に1度の更新になります。 ただし、今月9日から閲覧が可能になった救急時に使用する『救急用サマリー』では、直近のデータを見ることができます」 「電子処方箋で薬剤情報をリアルタイムに共有」や「医療機関同士のカルテ情報の共有」などにより「データに基づくよりよい医療が受けられる」ことを、政府はマイナ保険証のメリットに掲げている。 「病院内のデータベース化は、ある程度進んでいます。 電子カルテに関しては、厚労省でようやく『電子カルテ情報共有サービス』を推進する段階に入ったようです。ただ、ネットワークによって全国の医療機関や薬局で電子カルテが共有されるようになるまでには、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。 というのは、電子カルテを共有するにはデータを標準化しないといけないのに、現段階で国による電子カルテの統一が進んでいないからです。その辺の状況をずっと見てきて感じるのは、厚労省のリーダーシップの弱さ。それだけ医師会の力が強いとも言えます」 一体いつになれば、国民がマイナ保険証のメリットを実感できる日は来るのか。 「まず、システムがスムーズに動くことが前提になります。そのためには何が必要かというと、コードの統一とデータの標準化です。マイナンバーでコードの統一はできました。だからこそ、マイナンバーを使わないと意味がないんです。 データの標準化について言うと、漢字の標準化さえできていません。マイナ保険証のトラブルで、資格確認の際に名前や住所に黒丸(●)が表示されるという問題があがっていますが、あれは漢字が標準化されていないからです。 先ほど話した通り、電子証明書のシリアル番号を使う仕組みにしても、非常に複雑怪奇なシステムになっている。こんな状態で着実にDX化を進められるのか、と思ってしまいますね」 マイナンバー特別法を制定し、複雑なシステムをシンプルに作り変える、なんてことはできないのだろうか。 「特別法が制定されてマイナンバーを使うことになれば、そのような動きになっていく可能性はあります。でも政治家は、マイナンバーを使えないことがマイナ保険証のトラブルの根本原因であるとは考えていないでしょう。システムは機能設計をすれば動くと思っているようですから。 これらの問題に対して10年以上前から提言してきて、いまだにこんな状況で、私もそろそろ疲れてきましたね」 マイナンバー制度を作ったのは、当時与党だった民主党だ。現行保険証を復活させる法案の提出を検討(東京新聞)するのはいいとして、野田佳彦元首相が党の代表に返り咲いた今だからこそ、特別法の復活を検討してもよさそうなものだが……。 ▼榎並利博(えなみ・としひろ)行政システム総研顧問、蓼科情報主任研究員。1981年、富士通入社。住民基本台帳など自治体向けシステムの開発に従事。1995年以降は富士通総研で電子政府・電子自治体、マイナンバーなどを中心に研究活動を行う。著書に『デジタル手続法で変わる企業実務』(日本法令)『マイナンバーの呪い』(青山ライフ出版)など。 取材・文:斉藤さゆり
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