トランプに学ぶリーダーシップのアピール技術 アメリカ大統領選を制した言語スキルとは
トランプ氏は左手袖からゆっくりと歩いて登場し、演台の後ろに立ちました。このときの歩数は3歩。一方、ハリス氏は右手袖から同じく大股でゆっくりと登場し、一度トランプ氏がいる左側に向かい、自分から握手を求めます。握手後に右手にある自分の演台につきました。このときの彼女の歩数は11歩。距離が長くなった分、トランプ氏の約3倍の歩数になりました。 ハリス氏は、遠回りをしてより多く歩き、自分が主導して握手をするという非言語で、「この場を仕切っているのは自分だ」ということを言語外で伝えておくことに成功しているのです。
話し手は、実際にはどういう肩書・立場の人であっても、話している間は、その場を仕切るリーダーです。話す目的として説得や交渉がはいるのであれば、なおさら。その役割をまっとうするために取り入れやすいのは、ハリス氏も行った「歩き回る」という行為。 これは、動物のマーキング行動のようなイメージです。犬や猫などの動物が自分の匂いを残すため糞や尿をかけたりしてなわばりを宣言するのがマーキングです。話しながら部屋の中を歩き回ることで、全体を支配しているという印象を与えます。ハリス氏はこれを登場の段階で取り入れたのです。
この方法を私たちが真似るならば、部屋に入ってすぐに自分の席につくのをやめましょう。一番近いドアから入室せず、あえて後方のドアから入ります。そうすると、自然と回り道をして多く歩かなければならない状態をつくることができます。 相手が座ってあなたの入室を待っていた場合、聴衆は自分より目線の高さが上にある人から見降ろされることになります。これにより、聞き手の中に「この人に従わなければ」という上下関係の意識が無意識に芽生えます。マナーでは失礼とされる上から目線を、あえて逆手にとる作戦です。
■話し始めるところからではなく、歩き方から練習する 印象形成に関する心理学研究において「初頭効果」は繰り返し見出されています。初頭効果とは、最初の情報が全体の印象に対して大きな影響力を持っていることを示したものです。そのため、人前で話すときに大事なのは第一印象とよくいわれます。最初に好印象を与えることができれば、その後の行動も良い方向に受け止めてもらうことができます。 最初に聞き手が話し手を認識するのは、その姿を見た瞬間です。つまり、登場シーンを制す者がその場を制すのです。