〈徴収始まった森林環境税〉林野庁の“悲願”でも使い方見えず、「無駄遣い」と言われないために必要なこと
森林環境税でフォレスターを採用を
ここまでさんざん森林環境税の悪口を言ってきたが、筆者は山村や森林・林業にかかわる予算が増えることには大賛成である。とめどない大都市の進展は、国土の3分の2を占める森林に支えられていることを認識すべきだ。 問題は、予算の受け皿である市町村や現場にポリシーが不足し、実行態勢が整っていないことにある。地道な態勢づくりをしないで、いきなり資金を投入しても消化不良を起こすだけなのだ。いつもこの轍を繰り返しながら一向に改善しようとしない。政治家も官僚も目を覚ませ。 森林・林業に限らず国庫補助事業で何でもかんでも国主体になりすぎて、県や市町村がおんぶに抱っこの癖から抜けきれない。これは国の責任である。地方自治が機能していないのだ。 長年、地方自治体が国の出先的なことしかしていないのだから、企画力を発揮できず、ポジティブリストが出回る事態に至る。それに市町村は職員数が少なく、国や県から流れてくる多様で専門的事業に対応するのは大変だ。 限られた人材で多種類の事案をこなさなければならない。この解消がまず必要である。 つぎに、林業現場の担い手不足である。林業労働は肉体労働だと思われがちだが、実は極めて知的な仕事である。変化の激しい地形を読んで、日々の気象に対応し、森林の生態に熟知していなければ、効果的で、安全で、能率のあがる仕事ができないのだ。 この知的側面が不足すると労働災害の発生につながり、あらゆる業種の中で林業が断トツで危険な仕事になったままだ。林業就業の一番の阻害要因は何と言っても労働災害であり、これを減らさないことには森林・林業の未来はない。
この2つの問題点を解決するには、普段から森林・作業現場を巡回し、森林施業(森林の取り扱い)や作業方法、労働安全を指導できる人材、すなわちフォレスターを配置することである。 600億円すべてをこれに注ぎこんでも、全国の市町村数はおよそ1700であるから、1市町村当たり3500万円。これではフォレスターを3人雇用し、活用するのがやっとであるが、せっかくの森林環境税なのだから、この際フォレスター起用に特化するぐらいの決断が必要だ。現場に密着した立場からなら、いくらでも新企画が創造できるはずである。 肝腎なのはフォレスターの適材の発掘であるが、森林経営に熟知し、チェーンソーなどの道具の使用に長けた人材は各地域に必ずいるはずであり、他地域から求めてもよい。即戦力は森林組合や事業体の従業員、伐採から搬出、出荷まで自力で行う自伐林家等に必ずいるはずである。 雇用形態は市町村による直接雇用でも委託でも、市町村の状況に応じて工夫すればよい。複数、できれば世代の違う3人いれば、施業技術や作業技術の伝承にもなる。 採用に当たっては、資格の有無よりも実際の技術・技能、柔軟な発想を重視すべきである。筆者も技術士であるが口先だけで、これはダメ。知識、経験、発想力豊かで、チェーンソーの扱いもプロであることが望ましい。 フォレスターなどの都市部の市町村には必要ないと思われるだろうが、公園や近郊林の樹木は大きくなりすぎて、伐採も容易でないケースが増加している。これは伐採技術の中で最も高度な特殊伐採というものだが、台風や地震など災害時にも役立つこと請け合いである。 被災地での救援、復旧のために全国のフォレスターを糾合して派遣するなど応用性も高い。それと最近は都市部への進出が著しいクマやイノシシ、シカなどの野生鳥獣対策にも、山村と協働して対策に取り組む必要がある。
森林環境譲与税は理想的補助手段
森林環境譲与税は、使用する市町村にポリシーがあるなら、これほど使いやすいものはない。補助金と違ってひも付きでないから、どう使おうが国から文句をつけられることはない。できれば、今ある国庫補助金もすべて譲与税化した方がよい。 国が行う森林・林業政策は全体主義的で、これが過度な人工林化をもたらし、花粉症が激化する一因となった。市町村がそれぞれの地域に応じた政策と森林管理を実現できるようになれば、全国の森林はおのずと多様性の宝庫となるであろう。
中岡 茂