〈徴収始まった森林環境税〉林野庁の“悲願”でも使い方見えず、「無駄遣い」と言われないために必要なこと
要望はしたけれど使い方がわからない市町村
こうした旧態依然とした長年の運動で実現した森林環境税であるが、どのような使い方をしたらいいのか。林野庁は「森林環境譲与税を活用して実施可能な市町村の取組の例について」(林野庁・総務省は「ポジティブリスト」と呼ぶらしい)を掲げている。 30年もかけた上、市町村や市町村議員による熱烈な応援でできたものなのだから、創設と同時に完売致しましたかと思ったが、そうでもないらしい。「各市町村等から、どのような取組を実施できるのか具体的に例示してほしいという声を多くいただく」ので、“ポジティブリスト”を作ったのだそうだ。いったい彼らにどんなポリシーがあったのか。 これでは「林野庁に言われてやりました」ということが、見え見えではないか。これが従来型の予算獲得の構図である。 与党、担当官庁、その意を受けた都道府県や市町村が財務省に要望攻勢をかけて実現する。いつも財務省から予算を絞られている担当官庁は予算枠を確保・拡大するため与党(いわゆる族議員)と地方自治体に要望させる。族議員は地方自治体に恩を売って選挙協力を勝ち取る。市町村は増額された予算の配分にあずかる。財務省は地方からの要望に応えたという形ができるし、与党に恩を売れる。 まことによくできたもたれ合いの構図だが、肝腎な政策の中身そっちのけで増額要求ばかりを何十年も繰り返しているうちに、山村は滅び、クマ、イノシシ、シカが溢れかえり、都市部にまで進出する勢いになってしまった。
既存の政策の整理・見直しが前提
森林環境譲与税を使ってできる事業の中身はと見ると、ほとんど既存の補助事業と同じで新規さはない。もともと経常予算の適用事業拡大で何でもできるようになっているのだから、林野庁からすれば、森林環境譲与税は予算枠の拡大みたいなものである。本音を言えば市町村が林野庁の政策の枠からはみ出して、独自色を強めることを警戒している。県や市町村をあくまで国の出先にしておきたいのだ。 2024(令和6)年度の林野庁予算が約3000億円、23(令和5)年度補正予算の花粉症対策等約1400億円の実行は24年度となっており、これに森林環境譲与税の約600億円が追加される。3000億円が5000億円に急伸したが、使い切れるのかいささか心配だ。 現場の林業労働力は急激に増やせない。もし不用額でも出せば、次年度は経常予算をカットされることになりかねない。事業実行を担う森林組合などの事業主体に無理矢理事業を押し付ければ、困った事業主体が目的外に流用して、会計検査で指摘されるような事態にならなければよいが。 そもそも森林環境税を創設する際に、既存の補助事業を精査して、森林環境譲与税の事業とバッティングしないように整理しておくべきだろう。別枠なら別枠らしく、もっと特化した内容にすべきである。そうしないと経常予算が減額されてしまい元も子もない。 一番心配なのは、前々から事あるたびに言っていることだが、急激な予算の拡大が安易に皆伐の拡大につながることである。補助金や剰余金目当てに皆伐が増えても木材価格は下がるだけだし、皆伐によって生じる跡地は山地災害に曝される。森林環境税が森林破壊を促進したのでは笑い話にもならない。