XGにアメリカが大熱狂 北米公演で7人が見せた奇跡、音楽愛、揺るぎないメッセージ
リアルな人生の物語、長い道のりの記録
ここまでの流れが、「強さのXG」のストーリー展開だ。まるで鎧のように確固たるスキルと自身みなぎるアティチュードで会場を制覇した段階で、さらにここからは「リアルなXG」の物語が繰り広げられる。近未来的な映像が流れ、「SHOOTING STAR」のMVやオーディションや育成の時の映像、そしてメンバーの覚悟の言葉やXGALXのCEO / Executive ProducerでもあるJAKOPS(SIMON)氏の音楽を届ける想いなどが映像で流れる。7人それぞれのXGALXの出会いがまるで宇宙人による誘拐資料のように映し出され、それぞれの名前が登場するたびに愛と尊敬が詰まった歓声が上がる。 ここでSIMON氏がステージに立ち、いったん静まった中で両腕を掲げ、ステージの空気を支配する彼にスポットが当たる。ALPHAZの中で名物となっている「PDタイム」のはじまりだ。ジャズやR&Bなど、彼とメンバーにとって音楽的ルーツである楽曲に踊り、2000年代R&Bの名曲であるMarioの「Let Me Love You」が流れると、シンガロングが発生。日本で見たステージでは固定的な位置で楽曲をプレイして盛り上げていたSIMON氏も、サンフランシスコ公演では「September」に合わせてステージ上で踊ったりと観客を盛り上げ、背後にはメンバーたちの過去の幼い映像がノスタルジックに流れる。これはまさに「XGの人生」が映し出されているのであり、彼女たちを選び、アーティストとして育ててきたSIMON氏によるオーディエンスへのプレゼンテーションでもあるのだ。このステージに至るまでたくさんの苦しみや悲しみ、喜びや驚きがあって、彼女たちを応援し続けるALPHAZとともに何回りも大きく成長してきた。ここであえて「素のXG」を見せることは、XGというプロジェクト全体が背負っている覚悟を垣間見ることにもなる。 アレサ・フランクリンの「One Step Ahead」、そしてそれをサンプリングしたJIDの「Surround Sound」のトラックが流れ、着物とパールの衣装をまとい顔全体にスタッズが施されたようなメイクのビジュアルのCOCONAが登場する。そのユニークなルックス、そして唯一無二のスキルがいかにアメリカのALPHAZを虜にしているのかーーつまり、「アジア系女性としての革命」を起こしているのか、彼女が登場するたびに沸き起こる大きな歓声を聞けばわかるだろう。ラップラインそれぞれまったく系統が違いながらも、神話の女神のようなに、一人ずつ大きなステージを支配していく。続いてエネルギーと若いカリスマ性溢れるMAYAが元気に会場を楽しませ、アメリカンなノリでバウンスを煽る。次に、普段のシャイさを一切感じさせないDIVAのアティチュードと大きな羽を纏ったHARVEYが登場。独特な声と宇宙人のような佇まいとともに、曲ごとにクルクルと変わる表情の豊かさが印象的だ。ラップ陣ラストは、まるで漫画か宝塚から飛び出してきたかのように、バラを一輪持ったJURINが優雅にステージを舞い、セクシーかつクールなその風格で会場を狂わせる。”I know you can go louder !!”と観客を煽りながら、四人で「Trampoline」を踊りながら披露し、会場はまるでダンスパーティーのように揺れる。 次にボーカルラインのドキュメンタリー映像が流れ、まだ発声が不安定だったり歌に自信のないメンバーたちの姿が初々しく映る。歌への執念とこだわり、SIMON氏の練習への熱心さ、発音や発声へのこだわりと長い訓練の道のりの記録だ。「理想の人になるために課題に取り組みたい」という10代の頃のメンバーの言葉や、「いっぱいいい音楽があるから好きなのを見つけて欲しい」というSIMON氏の言葉は、音楽を愛する人だからこそ生まれる覚悟と優しさなのではないだろうか。 このイントロダクションを経て、ボーカルラインのソロタイムが始まる。JURIAは黒のキラキラのDIVA風衣装で登場、マライア・キャリーもカバーしたハリー・ニルソンの名バラード「Without You」を心地よく、そして哀愁深く歌い上げる。その美しいロングトーンと感情の込められた落ち着いた貫禄に対して、Xで「まるで2回離婚を経験しているかのよう」というコメントもついていた。音楽好きのアメリカの若者なら開始2秒で曲を当てられるイントロが流れ、HINATAの登場とともに「まさかこの曲を!?」というどよめきが流れた。テイラー・スウィフトのキュートな不朽の名曲、「You Belong With Me」を若干はにかみながらも力強く歌うHINATAと、この曲とともに青春を過ごしたALPHAZたちが生み出した一体感は、まさに鳥肌ものだ。興奮冷めやらぬまま、次はキーシャ・コール「Love」のイントロのギター音が流れたが、CHISAの歌い出しがほとんど聞こえないほどに会場のシンガロングが盛り上がった。前述の通り、ベイエリア出身のキーシャ・コールはこのショーに集まっている人々にとって特に親しみの深い存在だ。チャレンジングな曲であるにもかかわらず、軽快に、そして美しく歌いこなすCHISAの歌唱力だからこそ実現した、「音楽と愛の結晶」が実った奇跡の瞬間だった。 ボーカルラインの3人が揃い、アメリカツアーで名物となっているデスティニーズ・チャイルドの「Say My Name」をダンスカバー込みで披露。R&Bやヒップホップの音楽のみならず歴史、そして文化にリスペクトを深くもつXGだからこそ実現できる、「コピー」だけではない、パフォーマンスとしてのアートでありエンターテインメントであると会場の人々は実感しただろう。揃ったダンス、アティチュードや表現の緩急、全てがまさにR&Bスーパースターそのものでありながらも、ALPHAZたちとこの喜びを共有できることが楽しくて仕方がないことが伝わる満面の笑みがさらに幸せな気分にさせてくれる。 再び7人が揃い、「LEFT RIGHT」のリミックス音源とともにロングコートを着たメンバーが一人ずつ登場し、スタンドマイクを用いた振り付けで踊る。まるで影分身のように一致するダンスを披露しながらも、客の目をよく見ていることが特に印象的だった。去年の冬、日本のショーケースで見た時よりも何倍も大きく、音楽に体を委ねて動かし、コートもまるで小道具のように使いこなした。様々なダンススタイルを取り入れて世界観を演出し、一貫して「音楽の豊かさ」を伝えてくれる。落ち着いたテンポのまま、しっとりとしたバラード「WINTER WITHOUT YOU」を美しいハーモニーで歌い上げる。「さっきまであんなに激しくラップしていたのに!?」と驚く暇も与えないのが、XGのショーの醍醐味である。前日まで30度越えの真夏日だったことを忘れさせるほど観客も合唱し、その姿を見て笑顔になるメンバーがさらに微笑ましい。続いて、がん研究のためにマライア・キャリーやビヨンセ等がチャリティ企画として参加した「JUST STAND UP」をカバーし、「音楽が持つメッセージ性」を伝える。ここで初めてリラックスした表情を見せ、出だしの「強さ」とは対極的なあどけなさが垣間見える。 笑顔と笑いが絶えないMCタイムでは、メンバー同士で「サンフランシスコでは何がしたい?」「ゴールデンゲートブリッジに行きたい!(HINATA)」「みんな『フルハウス』大好き!(全員でテーマソングを歌いだす)」と英語でご当地トークを繰り広げたのちに、ライブ名物の「カラオケタイム」でアカペラで歌やラップを披露。軽々とアカペラでソロ曲を歌ってるのに信じられないくらい上手というギャップに、観客がどよめいたり絶叫が起きる。同時に、友達とカラオケ大会をしているようなゆるい雰囲気もあり、この実力を備えながらも人間としてカジュアルに接し続けられるところが、まさにXGのグローバルな魅力なのだと感じた。