「破滅的消費」で憂さ晴らし、経済事情で「即同棲」…アメリカ経済を苦境に陥れる“若者たちの抑圧”
「破滅的消費」に走る若者たち
米国経済を牽引する若者の消費にも暗い影が忍び寄っている。 11月1日付ブルームバーグは、米国の若者は深刻な債務危機に直面していると報じた。若者たちは社会に出た直後に新型コロナのパンデミックと数十年ぶりの高インフレという厄介なワンツーパンチを食らったからだ。 ニューヨーク連銀によれば、18~29歳の若年層は現在、合計1兆1200億ドル(約170兆円)の負債を抱えている。Z世代(1990年代後半から2000年代前半に生まれた世代)のクレジットカード利用者の7人に1人が限度額に達している。 米国の消費者債務総額(17兆8000億ドル)の6%強に過ぎないが、「こうした負債が若者の間で広がる経済への悲観論を助長するのではないか」との懸念が生まれている。 気になるのは、若者の間で「破滅的消費」という現象が広がっていることだ。懐事情が厳しくなれば消費を控えるのが通常だが、経済的不確実性を理由に散財している若者が4分の1以上存在している(米個人情報調査企業「クレジット・カルマ」調べ)。 筆者はこの非理性的な行動について、若者たちのメンタルヘルスの悪化が関係しているのではないかと考えている。
憂さ晴らしのための過大消費か
アリゾナ・クリスチャン大学の調査結果によれば、米国の若年層の3分の1がなんらかの精神疾患を抱えているという。 また、ナイト財団と市場調査コンサルティング企業のイプソスによる調査(8月発表)で70%の学生が「言論がもたらすダメージは物理的な暴力と同様だ」と回答したことが示すように、他者とのコミュニケーションは現在の若者にとって大きな苦痛となっているようだ。 映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」のアレックス・ガーランド監督も来日時のインタビューで、米国には不寛容な若者が増えているという認識を示した。その上で「対話が機能不全に陥っている状況を浮き彫りにするために本映画を撮った」と製作動機を開陳している(10月5日付現代ビジネスオンライン)。 精神的に追い詰められた若者が、後先考えずに一時の憂さ晴らしのために過大な消費をしているのではないかと思えてならない。そのような状況を見るにつけ、米国の若者たちにとって「アメリカンドリーム」ほどむなしく響く言葉はないと感じる。 若者たちを取り巻く環境が悪化し続ける限り、米国経済が苦境に陥るのは時間の問題なのではないだろうか。 藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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