夫に「毒」、そして「拘束」…ロシア政府の圧力を受けながらも勇敢に反体制活動を続ける、ナワリヌイ氏の妻とその強靭な「覚悟」
減り続ける体重
ナワリヌイの釈放を求める市民のデモが開かれるようになると、ユリアも街頭に立ち、逮捕された。その裁判中に刑務所から電話があったとき、ユリアは「5分間休憩をください」と落ち着いて裁判官に訴え、法廷の外から刑務所に折り返した。夫が限られた機会でかけてきた電話を無駄にしたくなかったのだ。 自分が2万ルーブルの罰金刑を科されそうになっていることや、心配する子供たちの様子は話さず、「こちらは万事順調。あなたは大丈夫?」と明るい声で夫の様子を尋ねている。 ナワリヌイがハンガーストライキで20キロも痩せたときは、回復期に食料を送ろうとしたが、収容所には「もう十分にあるから」と断られてしまった。その間、ナワリヌイは適切な治療を受けられないまま、体重が減り続けていた。 2022年3月、ナワリヌイは禁固9年の刑を下された。度重なる超法規的な裁判ののちに不当に科された長期刑だったので、夫婦は、これが事実上の終身刑なのだと悟った。面会のときにナワリヌイが「ここから出られない可能性は高い」と告げると、ユリアは「わかってる。私も同じことを考えていた」と静かに答えた。期待を持たせて妻を苦しめたくないナワリヌイを、一歩先回りしたユリアの気遣いだった。 ユリアは『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』の世界同時発売にあたって、読者に向けてこう言っている。 「アレクセイは暗殺未遂後に執筆を始め、獄中で最期を迎えるまで書き続けました。ここには彼の希望と闘いが記されています。彼は、祖国とロシアの人々を愛していました。私にとって、これは単なる本ではありません。彼が世界に向けた最後のメッセージであり、みなさんとわかち合える彼の心の一部です」 字幕:星 薫子 『「現実と夢の寄せ集めの記憶」…“毒”を盛られ、九死に一生を得たナワリヌイ氏が体験した、想像を絶する過酷な「試練」』へ続く
星 薫子
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