歴史の継承かアップデートか…“動物虐待”との批判で揺れる『上げ馬神事』700年の伝統が迎えた転換期
■「地域の活力になる」…経験者の複雑な思い
「経験者」は複雑な思いだ。15歳の時に「乗り子」として馬にまたがり、神事に参加した小林敏彦さん(71)もその1人だ。
小林敏彦さん: 「一回だけ坂上がった。もう、めちゃくちゃ嬉しかった。村の人が嬉しがって『高校合格したくらい嬉しいわ』って言った覚えあってさ」
当時の喜びを振り返り「今のままで」との思いだ。 小林さん: 「祭りのメインは坂上げやもんな。上がらなもうガックリだしさ。上がればもう万歳でさ。地域の活力が出るのは出るわね。別に今のままでいいって俺は思うんだけどさ。何を改善するんだろうな」
壁を乗り越えるという「地域の共通目的」が、町の活力にもなってきたという上げ馬神事。「改善は必要ないのでは」というのが経験者の思いだ。
■動物を扱う行事は相次ぎ変更や廃止 沖縄の「糸満ハーレー」は今が過渡期
しかし時代の変化とともに、動物を扱った行事は徐々に姿を消しているのが現状だ。江戸時代から高知県で盛んに行われた「土佐の闘犬」は、動物愛護の意識が高まり、6年前の2017年に県内の闘犬施設が閉鎖された。
沖縄の名勝負、ハブとマングースの「決闘ショー」は、2000年に爬虫類が動物愛護法の対象に加わってからは、形を変えた。
そして、今まさに存続が危ぶまれている祭りが、沖縄県糸満市で500年の歴史を誇る「糸満ハーレー」だ。
航海の安全や豊漁を願う市の伝統行事で、手漕ぎの舟による競漕で知られている。しかし、この祭りの中で海にアヒルを放ち、捕獲する際、アヒルの体を鷲づかみにする「アヒラートゥエー(アヒル取り競争)」が問題とされた。
2023年7月、動物愛護活動に取り組む東京のNPOが「アヒルへ乱暴行為」だとして、行事委員会の関係者らを警察に刑事告発した。 岡田千尋 代表理事(NPO法人アニマルライツセンター): 「もうすでに時代に合っていないのではないか。伝統だったとしてもですね、動物虐待という負のイメージを持たないものに変えていただくことが必要だと思います」
動物を虐げる「伝統」をもう求めていないのかもしれない。 ただ、かつて「上げ馬神事」で乗り子をつとめた小林さんは、「馬への愛情」は欠かしていなかったという。 小林さん: 「そらもう愛情もって育てなあかん。好きで飼うやつだでさ、そらもう大事大事。俺も祭りがなくなるってって、そんな考えたことないもん」