「悲惨すぎる」産後うつで実家に戻っている間に子どもを連れ去られる母親の「慟哭」
自力救済まかせの状態を放置している仕組みの側に大きな問題がある
問題はすべて夫婦の離縁そのものを「自力救済」に任せる仕組みの側にあると大村先生は続けます。 「アメリカの場合、たとえば性犯罪もGPSを利用した接近禁止など技術的な抑止を取り入れていますが、日本では『自力で逃げなさい』の自力救済頼みです。かろうじて逃げた先の住所はDV等支援措置で秘匿することができる、つまり隠すことには協力してくれるのですが、逃げるのは自力です」 私は隠してもらえるだけでもありがたいと思っていましたが、それでは足りないということですか? 「アメリカならば加害者と被害者を引き離し、加害者に更生プログラムを受けさせますが、日本にはそうしたプログラムがないのです。必要な法制度がなにひとつ整っていない。これではもう一つの自力救済である子の連れ去りがなくなるわけがありません」 一般に、日本を含む法治国家は「自力救済禁止の原則」を持ちます。つまり、自分の権利が侵害された場合に司法の手によらず実力行使で回復する行為は「禁止」が大原則です。しかし「連れ去り」「夜逃げ」は明らかにこの自力救済にあたるにもかかわらず放置されており、違憲であると訴えているのが大村先生が共同代理人を務める「子の連れ去り違憲国家賠償訴訟」です。 #1の冒頭で筆者は「共同親権に反対です」と述べましたが、私のように「共同親権を推進すると、妻と子の権利が踏みにじられる」ととらえる人が多い現状にも大村先生は疑問を呈します。 「むしろ逆、女性の権利保護につながります。というのも、そもそも離婚の過半は背景に暴力のない、性格の不一致による離婚です。暴力、虐待など顕著な問題がない夫婦の離婚であれば、共同親権として両親ともに養育負担義務を課すことが、むしろシングルマザーが陥りやすい経済困窮の予防となり得るのです」
ひとり親の経済困窮を「引き起こさない」ためにできることは?
なるほど、ひとり親世帯の相対的貧困率は50.8%とされますが、この惨状は単独親権制度がうまく機能していないからだと見ることもできそうですね。そもそも日本では妻子が夫の家の付属物としてとらえられていた歴史が長く、その権利を平等に戻す法整備が欧米ほどには進んでいないとも言えるのかもしれません。 「アメリカでは、児童虐待による離婚は別として、DVがあるからといって親と子の関係を断絶させることを認めません。ではどうするかというと、第三者が支援に入り、安全を確保したうえでの支援つき面会交流の体制をつくっています」 男親は産む側の性ではないため、愛着形成に時間がかかる傾向が見られます。会う機会のない子どもに愛着を育て、養育費を払う責任感を持ち続けられるかといえば、それが難しいのはどの国でも同様なのだそう。現実に、アメリカでは支援のうえでの面会交流が行われるように仕組みが変わったところ、養育費が支払われる率が上がったといいます。 「その例でもわかるとおり、安全に面会させる体制をつくることが養育を行う親を経済困窮に追い込まない最大の解決策となり得るのです。日本にも面会交流支援制度そのものはありますが、資金と人材不足の面でなかか思いどおりには進まないのが現実です」 ここまでのお話を数値的に見てみましょう。日本人では協議離婚が85%以上ですが*1、調査*2によれば離婚前に不仲を理由に別居したのは全体の43%。その中で、別居前に離婚した相手と話し合いをしていないのが約34%でした。理由として「 DVや子どもへの虐待等で話をする余裕がなかったから」と答えたのはアンケート回答者1000名中6名、0.6%でした。 また「あなたが離婚した原因に近いものをすべて選んでください」という質問への回答(複数回答)は「性格の不一致」63.6%、「精神的な暴力」21%、「経済的暴力」13.5%、「身体的な暴力」7.9%、「子への虐待」4.1%。 DVが背景にない離婚も多いのであれば、マネー相談を受けるFPさんたちから「あまりにも支払われない」と聞く養育費問題も、共同親権にすることで支払われるようになる気がしてきました。 「アメリカでは支払いが増えましたから、日本でもそうなるかもしれませんね。共同親権があってもなくても、DVや児童虐待から被害者を保護するのは絶対のこと。そのうえで、子どもの権利を第一にする仕組みを制度として作り、子どもが親と会えなくても仕方がないという現状の仕組みを変えないとならないのです」 次のお話では、なぜ「やられる側が逃げる」ことになっているのか、日本の制度が抱える問題点を伺います。