海外サポーター“ピッチ雪崩込み”なぜ許容? 日本なら大問題でも…「過剰問題視」されない理由【現地発コラム】
【日本×海外「サッカー文化比較論」】優勝時などに見られるファンのピッチ雪崩込み
日本と海外を比べると、文化的な側面からさまざまな学びや発見を得られる。「FOOTBALL ZONE」ではサッカーを通して見える価値観や制度、仕組み、文化や風習の違いにフォーカスした「サッカー文化比較論」を展開。今回取り上げるのは、ファンがピッチに雪崩込む光景について。日本ではタブー視され、海外ではなぜ許されているのか。ドイツを例にその理由を探る。 【動画】壮観な光景…レバークーゼンがファンと「We Are The Champions」を高らかに歌う瞬間 ◇ ◇ ◇ 現地時間4月14日のドイツ・ブンデスリーガ第29節。ホームのバイ・アレーナでヴェルダー・ブレーメンと対戦したバイエル・レバークーゼンはこの試合を5-0で制し、シーズンを5試合残した段階でクラブ史上初のリーグ優勝を成し遂げた。それとともに、長年同国で栄華を極めてきたバイエルン・ミュンヘンのリーグ12連覇を阻止している。 この試合ではゲーム中から優勝へのカウントダウンを始めていたサポーターたちがピッチへフライングで侵入し、正式に試合が終わると数千人に及ぶサポーターたちが一斉に雪崩込んで歓喜の雄叫びを上げた。またスタジアム外にいたサポーターたちも出入り口のゲートを突破して入場するなど、現場は大混乱の様相を呈したように見えた。 ただ、事前に警備体制を強化していた地元警察の対応は至って穏便だったという。のちに警察関係者はこのようにコメントしている。 「祝賀セレモニーは平和でリラックスした雰囲気だった。試合終了のホイッスルが鳴る直前には最初のストーム(嵐)に見舞われたが、現場では冷静に上手く対処することができた。試合後もすべて順調に進み、(アウェーの)ブレーメン・サポーターの退場もスムーズに行われた」 ハイテンションなサポーターたちを無理に制御すると、むしろ感情を逆撫でして暴動のリスクが増すと判断されたのだろう。警察の読みどおり、“祝宴”は平穏ながらも大変盛り上がって大団円を迎えた。 何かをきっかけにしてサッカーファン・サポーターがスタジアムのピッチに雪崩込むのはドイツサッカー界の風物詩になりつつある。一方で、日本サッカー界でのピッチ侵入は試合に負けた時などの抗議行動といったネガティブなイメージがある。ただ、ドイツの場合の多くは優勝や昇格、残留といった歓喜のシチュエーションが多い。 日本人選手が歓喜をもたらしたケースとしては、2021-2022シーズンのブンデスリーガ最終節、シュツットガルト対ケルンの後半アディショナルタイムに遠藤航(現リバプール/イングランド)がヘディングシュートを決めて劇的な1部残留を決めたゲームが挙げられる。この時もシュツットガルトサポーターが試合終了のホイッスル直後にピッチへ雪崩込んだ。選手やコーチングスタッフらは喜々とした表情で、それでも一応未然に危険を防ぐためにロッカールームへ駆け込んでいった。 また、板倉滉が所属していた2021-2022シーズンのシャルケはブンデスリーガ2部第33節のザンクトパウリ戦で勝利して1部返り咲きを果たし、その時もシャルケサポーターがピッチへ雪崩込んで記念とばかりにゴールネットを引きちぎって持ち帰る、またはゴールポストを破壊するなどの行為に及んだ。しかし、こちらも結局誰かが危害を加えられることなく“宴”が続き、板倉もサポーターから渡された日本国旗を羽織って、ピッチ内を練り歩いた。 最近の例では、今季ブンデスリーガ2部第33節での2位キールと3位デュッセルドルフの直接対決。1-1のドローに終わったことでキールが自動昇格圏の2位以内を確定させ、クラブ史上初の1部昇格に歓喜したホームのキールサポーターがピッチへ侵入し、その試合で先発出場した町野修斗も喜びに頬を緩ませていた。 糠(ぬか)喜びになってしまったケースもある。2022-2023シーズンのブンデスリーガ2部最終節でのことだ。2位のハイデンハイムと自動昇格の権利を争っていた3位のハンブルガーSV(以下、ハンブルク)はザントハウゼン戦で勝利し、後半アディショナルタイム時点でレーゲンスブルクに1-2でリードされていたハイデンハイムの結果をアウェーの地で待っていた。 もしハイデンハイムが敗戦、もしくは引き分けに終わった場合はハンブルクの自動昇格が決まるなか、ザントハウゼンのスタジアムアナウンスがハイデンハイムの敗戦とハンブルクの昇格決定を告げたことで、ハンブルクサポーターがピッチへ入り込んで祝杯を上げ始めたのだ。しかし、程なくしてそれが誤報であると判明した。なんとハイデンハイムがアディショナルタイムに2点を挙げる劇的な逆転勝利で昇格を決め、ハンブルクは1部16位のシュツットガルトとの入れ替え戦に回ることになった。ザントハウゼンはのちに誤報に関してこんな謝罪の声明を発表している。 「スタジアムのアナウンサーが、ハンブルガーSVが昇格したと誤って思い込んでしまいました。スタジアム内の緊張を和らげるために、彼はゲストであるハンブルクの昇格を祝福してしまいました。ザントハウゼンはこのような発表によって起こったリスクと結果を認識しており、ハンブルガーSVとスタジアムのファンへの誤った発表について謝罪します」 ちなみにこのシーズンのハンブルクは入れ替え戦でシュツットガルトに敗れて1部昇格のチャンスを逃している。