ウイグル自治区で進む“中国化” 地名を「幸福」「団結」に改変、モスクには施錠
中国北西部の新疆ウイグル自治区ウルムチでイスラム教徒の少数民族ウイグル族が漢族と衝突した暴動から15年が過ぎた。中国政府は暴動を機にウイグル族への抑圧を強化。徹底的な統制で反発を押さえ込んできたが、人権侵害を危惧する国際社会の批判はやむことがない。宗教や文化、慣習の「中国化」が進む現地を訪ねた。 (新疆ウイグル自治区で伊藤完司) 【写真】カシュガル郊外の「和諧村」と書かれた看板 ウイグル族が人口の9割を占めるとされる自治区南西部の中核都市カシュガル。11月中旬、中心部から車で約2時間の田園地帯に向かうと、村役所とみられる建物の入り口に「幸福村」と書かれた金色の看板があった。以前はウイグル語由来の名称だったという。 漢族の村関係者は「ウイグル語の名前は不便だから5年前に中国語に変えた。現代化した中国にマッチした名前だ。他の村も同様に名前を変えた」と打ち明けた。悪びれる様子は感じられなかった。 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は今年6月、自治区の約630の村でウイグル族の文化などを反映した名称から、中国共産党のイデオロギーを強く反映した「幸福」「団結」「和諧」「友誼」「赤旗」などに変更されたと発表した。2017~19年を中心に実行され、「マザール(聖廟(せいびょう))」や「ホジャ(宗教指導者)」といった単語が入る村名が消えたケースが多いという。 HRWは「ウイグル族の文化的・宗教的表現を消し去ろうとする中国政府の取り組みの一環だと思われる」と批判している。 HRWが名称変更を指摘したカシュガルと近隣のヤルカンドの村々を訪ねてみた。8カ所を回って掲示物や地元住民の話で検証したところ、計6カ所が指摘通りに変更されていることが確認できた。このうち3カ所は「幸福」が付く名称で、残りは「友誼」「団結」「和諧」の文字がそれぞれ使われていた。 ある村で若者に名称変更の経緯を尋ねると「なぜ名前を変えたのか知らない。仕方がない」とだけ話した。敏感な話題を避けようとしているように見えた。 ■「2000年の歴史」に幕 カシュガルの中心部には最近まで2千年の歴史があると伝えられていたバザールがあった。行ってみると、すでに取り壊され、ビルを建設する大型クレーンがせわしなく動いていた。 現地メディアはショッピングセンター、高級ホテル、レストラン、劇場などが入る総面積30万平方メートルの複合施設「シルクロードグローバルポートセンター」に生まれ変わる予定だと報じていた。 中国政府は中央アジアに近いカシュガルを巨大経済圏構想「一帯一路」の要衝と位置づける。現代的な「観光ランドマーク」(中国メディア)を整備することで、経済発展を内外に示す意図があるとみられる。 バザールの一部の商店は車で30分ほど離れた商業施設の一角に移転していた。客はほとんどおらず、空き店舗が目立つ。歩いていると、ウイグル族の商店主から「こんにちは」と日本語で声をかけられた。「バザールには日本人観光客もたくさん来て商品を買ってくれた。ここは客が少なくて一部の商店は別の場所に去って行ったよ」とさみしそうに肩を落とした。 ■「信じるのはお金」 ヤルカンド中心部にこぢんまりとしたモスク(イスラム教礼拝所)があった。入り口には「愛党愛国」と書かれた赤い看板が掲げられていたが、人けはなく、施錠されている。近くの住民は「モスクはたまにしか開かない。私たちも礼拝はしない」と話した。 複数のウイグル族の人に話を聞いたが、いずれも「礼拝には行かない」。「共産党員は礼拝には行けない」と話す人もいた。 カシュガルで知り合った30代のウイグル族の男性は「漢族の友だちも多くて一緒に白酒を飲むよ」と笑顔で話し、「出世するのは共産党員ばかりだ。私も党員になりたい。宗教は信じない。お金を信じている」と続けた。 自治区では多くのモスクが取り壊されたり、中東風の建築物を改変されたりしている。オーストラリア戦略政策研究所が20年に発表した調査によると、主に17年以降、自治区全体の65%に当たる約1万6千のモスクが破壊や損傷を受けた。宗教統制がウイグル族の暮らしにも大きな影響を与えていることが垣間見えた。 10年代にはカシュガルやヤルカンドでも漢族や警察とウイグル族の衝突が相次いでいたが、近年はテロ事件なども伝えられていない。中国当局は国際社会の批判を「人権を口実にした内政干渉」と一蹴し、テロ対策で脱貧困を達成したと胸を張る。 ただ米国のトランプ次期政権では、自治区の人権問題を厳しく批判してきた対中強硬派のルビオ上院議員が次期国務長官に指名された。自治区の人権問題が再び国際社会の注目を集める可能性もある。