「付き合わなかった人って、綺麗なままでいてくれる」映画監督・枝優花、『パスト ライブス/再会』を語る。
枝 やっぱり監督が女性っていうこともあって、主人公の描き方がドライでよかったです。彼女を取り巻くふたりの男性が常に不安そうに動いていて、 運命にときめいたりとか、彼女が向こうに行っちゃうんじゃないかと心配していたり。ノラだけが常に真ん中で、いま自分はこういう状況なんだっていうことを伝え続けているんですけど、そんな彼女もラストに...... 。でもカメラは、その表情に寄っていかない。その距離感にも強さを感じたというか。「これは自分だけの中にある迷い、悲しみで、不安な状況でも、これを誰かに理解してもらいたいと思ってるわけではない」という感じも良かったです。 金原 すごい定点観測的な構成ですよね。そもそも12歳、24歳、36歳っていうスパンで物語が展開するのがもう定点観測カメラ的な映画でもあるし、カメラもちょっと遠くからふたりを捉えて、感情の揺れをどう隠そうとするかみたいな。 枝 やろうと思えばいくらでもエモーションを膨らませられるシーンがあるのに、 顔が全然見えなかったり、バックショットだったり、影だったりとか。それがセリーヌ・ソン監督のテーマ、心の距離感というか。必要以上にドラマティックにもしないし、でも本人たちの心の中に蠢いていることをめちゃくちゃ大事にしているから、そのバランスが、私は観ていてて心地よかったですね。 金原 今回の作品のテーマのひとつが「イニョン=縁」っていう、たまたま同じクラスだった男女ふたりが、一生の絆を感じるかっていう。縁ってその人の捉え方次第だと思うんですけど、枝さんは縁っていうものを元々信じてなかったけど、映画業界に入ったらものすごくあるものだと言われていて。そのあたりをぜひ伺いたいです。 枝 信じてなかったというか、「偶然」ぐらいの意味だと思ってたんですけど、この業界に入ってから常にプロジェクトが変わって、出会う人の数がものすごい多い中で、 やたらとこの人に縁を感じるとか、この人と出会ってなかったらいまの自分は絶対なかったみたいな、大きな出会いが明確にあって。振り返ると、これは多分出会うべくして出会ってるな、とを感じざるを得ないです。自分の周りの人たちもそういうものをすごく大事にしてるというか。「枝組」みたいに撮影ごとにチームが集まるんですけど、 完璧に同じメンバーは絶対に揃わないので、「もうこの瞬間しかない1ヶ月だね」って言いながら毎度やるんです。それを運命的っていうんじゃなくて、その時間を、自分にとって意味のあるものにしたい気持ちがこの業界入ってから強くなったんだと思います。