“学際的”はこれからの自動車創りのキーワード。シン自動車創り・学際的キーイシューズ
1970年に三栄書房から出版された『おはなし自動性能論 あなたの車はハイウェイを走れるか』という本がある。その著者が小口泰平先生だ。日本の自動車研究の泰斗として数々の研究成果を挙げてこられた小口先生が、21世紀の自動車性能論を書き下ろす。名付けて『シン自動車性能論』である。第2回のテーマは「学際的」というワードである。 TEXT:小口泰平(OGUCHI Yasuhei) 学際的Key Issues これからのクルマ創りの世界では、「地球環境保全」、「交通安全・安心・安楽の確保」、「資源・エネルギー維持のモビリティ」、これらの実現が課題でしょう。事はトレードオフ(例えば経済的二律背反)の難しさを秘めていますが、それらを乗り越えることこそが課題です。少し大げさに言いますと、これこそが真の革新といえましょう。 ところで、学際的(Interdisciplinary)という用語が日本で使われ始めたのは1983年頃のこと。それまではギリシャ語と英語のみでしたが、身近な辞書にも載るようになりました。現在では、学際思考をより強化する意味で超学際的(Transdisciplinary)も一部で使われることがあります。 そして、ひと時代前は、次元の異なるものを同一線上で論ずることは御法度でした。今日の学際的なこの時代ではごく自然です。「人」「人間」の立場から「コト」や「モノ」、例えばクルマなどを考えるとき、ディメンションの異なる要求性能に重みづけを行ない、トレードオフを配慮しながら、判断することは日常的にはごく当たりまえなのです。旧来の思考では、個々の技術を中心にして、それらを組み合わせて「どのようなクルマが作れるか」を判断しますが、本来はこの流れは逆相でして、「便利さ・楽しさ・ニーズ・コストなど」からクルマ創りが組み立てられてゆくものなのです。今日、さまざまな価値を自由に提案することが可能になったのは、技術そのものの高度化のおかげであることは確かでしょう。インプットである「要求や期待」をいかに把握するか、そしてアウトプットである成果をどのように開拓してゆくか、新たなクルマ創りの時代に入りました。 ところで、最近話題になっているバルセロナの教会、アントニオ・ガウディの「サクラダ・ファミリア」は着工から130年以上経った今でも建築が進められ、いよいよ完成が間近とのこと。1978年から日本の彫刻家・外尾悦郎氏が主任として活躍され、歴史的な完成の年が近づいています。壮大な外観、尖塔の美しさとその迫力、神秘的なステンドグラス等々、異次元の世界です。そこには、企画・経理・設計・工事・役所等々の「粘り強い取り組み・信念・IT等の新技術」が。そして何よりも重要な「法的合理化」(国の議会が、長年の違法建築を法的には不問とすることを議決し解決)が功を奏しています。時には「理を超える実利」、人類社会の在るべき学際的な取り組みとその成果といえましょう。
小口 泰平