<集団的自衛権を考える>日本の「イスラム国」攻撃への参加はあり得るのか?
イラクとシリアにまたがりイスラム世界の武力統一を標榜する過激派組織「イスラム国」に対し、米国はさる8月、イラク国内の支配地域を空爆したのに引き続き、9月22日からサウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダン、バーレーン、カタールの中東5か国の参加を得てシリア領内の拠点にも空爆を開始しました。「イスラム国」による蛮行は世界に知れ渡っており、各国は米国の行動を支持しています。安倍首相も支持を表明し、また、日本としては難民支援や周辺国への人道支援など軍事的貢献でない形で、できる限り支援を行っていくという考えであると語っています。 【図表】<集団的自衛権>日本人母子が乗る米艦艇は防護できる?
「我が国の存立が脅かされる」か否か?
さる7月1日に閣議決定された集団的自衛権などに関する新方針を「イスラム国」の問題に適用すればどうなるでしょうか。米国は人道問題の解決のためすべての国が参加することを求めるとは言っていますが、発表されている限りでは自衛隊の派遣を要請してきていません。そもそも新方針を実施する法律はまだできていません。したがって、今の段階では仮定の問題にすぎませんが、新方針の意味を確認するよい機会であると思います。 米国は、シリア領内への空爆を国連憲章51条の集団的自衛権の行使であると主張しています。日本としても空爆に参加するため自衛隊を派遣できるでしょうか。判断の基準となるのは新方針が定めている集団的自衛権行使の要件であり、とくにそのなかの「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において」という要件の有無が問題になりそうです。 これは非常に厳格な要件で、文字通りこれを満たす事態としては、たとえば、「イスラム国」が中東にある重要な石油生産施設やパイプライン、シーレーンなどの輸送施設・輸送路をすべて支配下に置き、日本への石油供給・輸送の大部分が止められてしまうというようなことが考えられます。もしそれほどひどい事態に至らず、一部の供給が止められる程度であれば、「我が国の存立が脅かされる」とは言えないでしょうから、集団的自衛権を行使することはできないという結論になりそうです。