「私はENFJ-Aです」で自己紹介が成立する…若者たちがハマる「MBTI性格診断」の"落とし穴"
■「性格は親から遺伝する」は一面的 遺伝子というのはタンパク質の設計図であり、これに基づいて受容体を作るのか・作らないのか、どれくらい作るのかが決められています。 たとえば、ある種のセロトニントランスポーターを持たない家系の人は、家族性のうつ病にかかりやすいということが知られています。 私たちの気質や性格が、脳内物質の放出と受容で決まるとしたら、突き詰めると、それを受け取り、取り除く役目を負っているこれらタンパク質のはたらきが私たちの脳のはたらきを規定していると言うことができます。そういう意味では、性格も遺伝するというのは、完全に否定することはできない事実です。 しかし、遺伝子の転写・翻訳は生後の環境によって変化することもわかっているため、一概に“生まれ”だけで決まるとも言い難いのです。 さらに、脳の神経回路は生後の経験によって柔軟に書き換わったり、受容体の発現パターンを自由自在に書き換えたりする「可塑性」という性質を持っています。そのため、とある遺伝子をたくさん持っているから、あるいは持っていないからといって、それが結果としてその人の性質を決めていると考えるのは非常に危険な考え方と言えます。 ---------- 毛内 拡(もうない・ひろむ) 脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教 1984 年、北海道函館市生まれ。2008 年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013 年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018 年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を行っている。主な著書に、第37 回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『「頭がいい」とはどういうことか–脳科学から考える』(筑摩書房)、共著に『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)などがある。 ----------
脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教 毛内 拡