アメリカ騒然の保険会社CEO殺害事件と「性的倒錯」の意外な関係
容疑者がネット上で「正義の味方」扱いされている。暴利を貪る医療保険業界に腹を立てている人が多いことがその理由と言われているが、「ハイブリストフィリア」を指摘する専門家もいる
去る12月4日にニューヨークのど真ん中で米医療保険大手ユナイテッドヘルスケアのブライアン・トンプソンCEOを射殺した容疑者ルイジ・マンジョーネ(26)が、なぜか今ネット上で「ヒーロー」扱いされている。理不尽な話だが、ある意味、今の時代に珍しい現象ではない。 【写真特集】ニューヨークが生む偶然でない偶然 私たちの健康不安に付け込んで暴利を貪る医療保険業界に、腹を立てている人はたくさんいる。だから今回の凶行に一定の共感を抱く人がいるのは、まあ当然だ。 しかしここで注意したいのは、アメリカでは過去にも殺人犯(あるいはその容疑者)がメディアの報道を通じて、意図的ではないとしても結果として「有名人」に仕立てられる例が多々あったという事実だ。しかも今は、SNSがこの傾向を助長している。 古くは世界恐慌と禁酒法の1930年代に銀行強盗を繰り返し、当局からは「社会の敵」と呼ばれたが世間からは「義賊」と呼ばれたジョン・デリンジャーの例がある。 彼はFBIの捜査員によって1934年に射殺されたが、当時の新聞は彼を「アメリカ版ロビン・フッド」と呼んでいた。ちなみに2009年のハリウッド映画『パブリック・エネミーズ』では、あのジョニー・デップがデリンジャーを演じている。 あるいは94年夏の元フットボール選手O・J・シンプソン(黒人)の事件。前妻とその男友達を刺殺した容疑で指名手配されていたシンプソンは車で逃走、カリフォルニアの幹線道路で2時間近い派手なカーチェイスを繰り広げた。 その様子はテレビで全米に生中継されたのだが、沿道には容疑者に共感して「逃げろ、OJ」などのプラカードを掲げる人々がいた。 「世紀の裁判」と呼ばれた公判もテレビで逐一報道され、有罪か無罪かをめぐり世論は二分。最終的に陪審員の評決で無罪が言い渡されると、OJファンの人たちから歓声が上がったのだった。 しかし、こうしたファンの熱狂にはいささか病的な面もあったようだ。