特養の“看取り犬”「文福」 90歳代女性が亡くなる前夜、ベッドで顔なめる…見守った家族は、抱きしめ感謝
看取り活動は文福の思いによるもの
今回の文福の看取り活動を見て強く感じたことが二つあります。一つは、文福の看取り活動は、やはり文福の「思い」によるものなのだということです。そして、もう一つは、文福は看取り活動と同時にグリーフケアも行っているのだということです。 グリーフケアとは、亡くなった方のご家族に対し、死別の悲嘆(グリーフ)を緩和して支えるケアです。遺族ケアと呼ばれることもあります。 高齢者が亡くなった場合、家族のショックはあまり大きくない場合が多いです。特に特養の入居者については、90歳代など超高齢である場合が多く、死期が近いことが予測されていることも多いので、ショックは小さいと思われます。しかし、いくら高齢でも、その死を覚悟していても、ご家族にとって喪失感は深く、悲しみは大きいものです。それを癒やすことがグリーフケアなのですが、正直なところ、とても難しいものです。 悲しんでいる家族にかける適当な言葉など、なかなか見つかりません。その一方で、亡くなった入居者の家族は、身内への連絡や葬儀会社との相談などで忙しく、ゆっくり話をする時間もありません。だから職員が家族のグリーフケアをすることは、現実には難しいのです。 一番のグリーフケアは、家族がいい最期だったと感じられることです。そのために職員たちは、入居者の最期に寄り添う看取り介護をしている期間は、ご本人のお好きな音楽を流したり、思い出の写真を壁一面に飾ったりと、精いっぱいの工夫をします。もちろん、好きな物に囲まれて旅立ってほしいという入居者のための工夫なのですが、同時にご家族が納得できる最期になるようにという、家族のための工夫でもあるのです。 納得できる最期にする、という点では、文福の活動は最高のグリーフケアです。今回、逝去された入居者のご家族も、「大好きな文福が来てくれて、幸せに旅立てたと思います」と感動されていました。文福の看取り活動がご家族を癒やしたのは間違いありません。 もちろん文福は、ご家族のために看取り活動をしているのではありません。大好きな入居者の最期に寄り添っただけだと思います。その純粋な文福の思いが、ご家族を癒やし、最高のグリーフケアになったのです。 文福がこれから、どれぐらい看取り活動ができるかわかりません。推定年齢は14~15歳で、そもそも、中型犬の平均寿命を超えていますから、あとどれぐらい生きられるかもわかりません。でも文福は、看取り活動ができなくなっても、最期まで入居者を癒やしてくれることでしょう。文福がそこにいてくれるだけで皆の大きな癒やしになるのですから。