少子化中国で孫を迎える「父方の祖父母と母方の祖父母」の知られざる攻防
施 利平(明治大学 情報コミュニケーション学部 教授) 少子高齢化に歯止めが効かない日本ですが、お隣中国も深刻な少子化に直面しています。かつて都市部では1組につき子ども一人までの出産しか認められていなかった中国。「一人っ子政策」が廃止された後も年間に生まれた子どもの数は減少していますが、そこで結婚・出産をめぐる家族の関わり方を日中で比較してみると、普段はあまり意識することのない自分が所属する社会の特徴が浮かび上がってきます。
◇少子化が止まらない日本と中国、それぞれの社会事情 私の専門である家族社会学は、家族と社会の関係性を考える学問分野です。現在は主に中国の家族の構成や特徴を検討し、日本の家族との比較も視野に入れた研究をおこなっています。 周知のように、現在の日本社会は少子高齢化社会であり、晩婚・未婚・非婚化が進んでいます。他方、お隣の中国では、1979年から導入された一人っ子政策の影響で少子化となり、2022年には人口減少に転じて、2023年に総人口でインドに抜かれました。 このように同じく著しい少子化が認められる現代の日本と中国ですが、それぞれの社会における結婚や出産の捉え方は、様々な点で異なっています。 統計データを見ると、日本の人々は結婚や子どもを持つことに必ずしも否定的ではありません。18~34歳の未婚者のうち「いずれ結婚するつもり」と考える人は依然として8割を超えており、妻の年齢50歳未満で初婚どうしの夫婦にたずねた「平均理想子ども数」は2.25人、全部で何人の子どもを持つつもりか尋ねた「平均予定子ども数」は2.01でした。(*1) 1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す合計特殊出生率は1.26(2022年)ですので、結婚をしていないがために子どもを持たない人や、理想の数の子どもを欲しくても現実には持つことができない夫婦はかなりの数にのぼると言えそうです。 理由としては、第一には経済的な要因が挙げられますが、それだけでなく結婚や出産で生じた家事・育児の責任が女性に偏るために就労と家庭を両立できないという事情や、公的サポートが十分でない点が挙げられます。さらに1990年代以降の新自由主義の影響で、結婚があくまでも個人の自由意志に基づいた選択となり、結婚するのもしないのも個々人の「自己責任」とされるようになったのも晩婚・非婚化の原因のひとつと考えられるでしょう。 他方、中国に目を向けると、一人っ子政策のもとで成長した20代から40代前半の一人っ子世代は、実は「面倒臭いから結婚はしたくない」と考えている人が多いといくつかの調査は指摘しています。その背景として、マイホーム購入の障壁となる不動産価格の高騰や、女性の社会進出および都市部の生活スタイルの変化だけでなく、縁談に介入してくる親族や同僚の強いプレッシャーなど、文化的要因も含めてさまざまに推測されています。 たしかに、中国社会は日本社会よりも結婚規範が強く、「結婚は大人になるための通過儀礼であり、人間として果たすべき責任」と見なされています。 中国の研究者が1990年から2020年までの初婚年齢と生涯未婚率を比較したところによると、この30年間で男女とも初婚年齢は大きく上昇したものの、生涯未婚率は大きな変化を見せていません。2020年の中国の生涯未婚率は女性で0.4%、男性で3.1%と、いまだに「皆婚社会」が続いています(*2)。 今日の中国社会でも、「子どもを持たないことは最大の親不孝である」と思われているため、子どもを結婚させて子孫を残すことは親の責任だと考える親世代は、あの手この手を使って子どもに結婚を促します。実際、親世代は子どもの代わりに婚活に精を出したり、マッチングアプリに子どもの情報を登録するなどして、子世代の配偶者選択に積極的に関与しているのです。 *1国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(2021年6月実施) *2 陳衛、張鳳飛「中国人口的初婚推遅趨勢与特性」(『人口研究』第46巻第4期、中国人民大学、2022年)