少子化中国で孫を迎える「父方の祖父母と母方の祖父母」の知られざる攻防
◇一人っ子政策で大量に登場した「一人娘」の出産をめぐる家族の攻防 前述したとおり、中国では膨大な人口を統制するために、1979年から2015年まで35年間にわたって一人っ子政策が実施され、1組の夫婦が出産可能な子どもの数を都市部においては1人、農村部では1.5人に制限してきました。これによって登場したのが一人っ子世代です。 その後、労働力不足や扶養・介護が必要な高齢者の増加などを理由に、2016年に一人っ子政策を廃止して二人っ子政策を導入し、さらに2021年からは第三子の出産を許容する政策へと転換を図りましたが、出産可能な子どもの数が増えたにもかかわらず、年間出生率は中国政府が期待するほど増加していません。 むしろ出生者数は2017年以降減少し続けており、中国政府の発表によると、2023年の出生者数は902万人で、前年から54万人も減少しています。中国メディアが報じた政府の試算によれば、2022年の合計特殊出生率(女性1人が一生に出産する子どもの数)は1.09で、日本の1.26をも下回っています。 出生数が減少した理由としては、教育・経済的負担の重さや育児負担の女性への偏りなど、日本と共通するものも多い。他方、子世代の出産に関しては日本ではあまり見られないような現象として、親世代から出産要請(促産)が挙げられます。 促産とは、一人っ子世代の親たちが政策が変わったことを機に、息子夫婦または娘夫婦に第二子や第三子の出産を要請する行為のことです。ここで注目されるのが、一人っ子世代のなかの「一人娘」の出産をめぐる親世代と子世代の間での世代間交渉、あるいは妻側親と夫側親間での交渉です。 そもそも、中国家庭では、親世代は子世代(とりわけ息子)が結婚した後は同居をし、子世代を経済的に援助して、孫の育児をサポートするケースが多いです。中国社会は経済発展を成し遂げた後も社会福祉が十分整備されているとはいえず、政府は家族内での相互扶助に期待しています。 親世代が子世代の育児をサポートするのは、子世代からすれば社会的な育児資源が乏しいがゆえに親、親戚、ベビーシッター等に育児協力を要請せざるをえず、また、親世代から見れば子世代に対して提供する育児サポートは自分達の老後の福祉に大いに関係しています。扶養や介護等の公的資源もまた限られているために、老後の扶養・扶養を子ども(とりわけ息子)に頼らざるをえないという側面があるのです。 また、儒教文化圏である中国は今も男性優位の社会であり、嫁取り婚が典型的な婚姻形態であるため、一般的に女性は夫側に嫁ぎ、結婚後に夫側の親と同居します。都市部の一人娘は親からの愛情、資源、教育投資を独占的に注がれて育てられる傾向にありますが、家族に男兄弟がいないので、一人娘が結婚して夫の家に嫁ぐと、その親は老後の福祉の担い手を失うことになってしまいます。