糖尿病治療の歴史 「インスリン治療が失明や透析の原因」と誤解された時代も…
1990年代以降の糖尿病治療の進化を知る
編集部: 1990年以降の糖尿病治療の変遷について教えてください。 大杉先生: 1990年代になるといくつかの大きな出来事がありました。まず、多くの日本の医療機関でも、ヘモグロビンA1cの検査ができるようになりました。 さらに、ヘモグロビンA1cを7%以下に低下させておくことで、目や腎臓の合併症が出にくかったり、進行しにくくなったりするという研究結果がアメリカやイギリス、そして日本でも初めて発表されました。この研究結果により、治療目標が定めやすくなりました。 編集部: 飲み薬やインスリンによる治療に変化はありましたか? 大杉先生: 糖尿病の飲み薬の種類が5種類程度に増え、選択肢が広がりました。また、インスリン治療も注射器からペン製剤という、ペンの形をした操作が簡単な自己注射薬でおこなうように変化してきました。 編集部: 2000年代以降の糖尿病治療について教えてください。 大杉先生: 2009~2010年頃にDPP4阻害薬、2012年にはSGLT2阻害薬が使われるようになりました。2015年以降には、SGLT2阻害薬が糖尿病治療だけでなく、脳卒中や心筋梗塞による死亡率も低下させると報告されました。 今では糖尿病の方だけでなく、心不全や腎機能低下の治療にも有効とされ、広く使用されています。 編集部: そのほかに、広く使われるようになった治療薬はあったのでしょうか? 大杉先生: 世界的に肥満が大きな課題として認識されるようになり、GLP-1受容体作動薬という薬が広く使われるようになっています。2010年代頃から使えるようになった薬で、糖尿病の治療薬であるとともに肥満の治療薬としても使われるようになってきています。
編集部まとめ
糖尿病治療は、インスリンの発見を契機に大きく前進し、その後もDPP4阻害薬やSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬といった革新的な治療薬が開発されてきました。現在では、より効果的な糖尿病の管理が可能になってきています。治療法が進歩したとはいえ、早めに治療を開始することは重要です。気になる方、健康診断で指摘された方などは、ぜひ一度病院にかかってみてはいかがでしょうか。
【この記事の監修医師】 大杉 満 先生(国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター長) 東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ハワイ大学内科、ワシントン大学(セントルイス)内分泌・糖尿病・脂質研究科で研修及び研究に従事した後に帰国。東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科、三井記念病院、東芝病院(現・東京品川病院)で勤務の後、現職。糖尿病のみならず、内分泌疾患、肥満症の臨床及び、新規治療法の開発、ホームページを通じた情報提供をおこなっている。日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会指導医、米国内分泌糖尿病代謝専門医。
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