東京レインボープライドという「場」──連載:松岡宗嗣の時事コラム
「東京レインボープライド2024」が、4月20日、21日に東京・代々木公園で開催された。ライターの松岡宗嗣がリポートする。 【写真を見る】東京レインボープライド2024の様子をダイジェストで(全12枚)
松岡宗嗣が見た、「東京レインボープライド2024」
性的マイノリティの権利と尊厳を讃える「東京レインボープライド2024」が開催された。約27万人が来場し、約1万5千人が渋谷の街を行進した。 今年は4月19から21日の3日間開催予定だったが、1日目は強風により中止という波乱のスタートだった。ここまで準備を重ねてきた主催団体にとっては苦渋の判断だったと思う。ブース出展者、特に飲食ブースからも落胆の声が多く聞こえた。 2日目は快晴だった。私が初めて東京レインボープライドに参加したのは2014年。今年もイベント会場入り口に設置されたアーチをくぐりながら、約10年間、毎年のように参加していたことを思い起こす。 少し歩くだけで「久しぶり」と何人もの人に出会い、それだけで気分が高揚した。年に一度、ここまで生きてこられたことを確認し合うような気持ちになる。ここにいるはずだった人がひとり、またひとりといなくなってしまったことを実感し、もう二度と会えない人の顔を思い出す。 日本で初めてプライドパレードが開催されたのは1994年。今年で30周年となる。今より厳しい社会状況の中で声をあげ、運営の難しさなど、ときに中断しながらも今日までプライドを繋いできた人たちの弛まぬ努力に思いを馳せる。 東京レインボープライドは、「場」だ。それは、性という側面から、社会の隅に追いやられてきた人たちが、「ここにいる」と存在を可視化したり、抗議したり、制度を求めたり、お互いの存在を讃えあったり、祝福したり、同じ思いや、または違う思いを持った人たちが集い、社会に声をぶつけるための場だと思う。 今年も会場やパレードに参加した人、または参加しないと決めた人、それぞれの思いを見ていきたい。
出展ブースや企業協賛の増加
例年にも増して出展ブースは増え、普段はパレード整列場となっているイベントスペース外にある並木道にもブースが立ち並んでいた。 会場は企業ブースが目立つが、性的マイノリティの居場所、子育て、教育、医療福祉などさまざまなLGBTQ+関連団体のブースも軒を連ねていた。コミュニティのブースは企業ブースより出展費用が下げられているという。 昨年まで、会場の中心はきらびやかに装飾された企業ブースが立ち並び、LGBTQ+コミュニティのブースは端の方に追いやられている、という批判の声が少なくなかった。今年はそうした声を受けてか、会場中心から周辺まで、企業とコミュニティブースが混在するような配置の工夫がされていたように思う。たまたま会場に足を踏み入れた人や、試供品をもらうために企業ブースをまわるような人にとって、偶然の出会いがあれば良いなと感じた。 一方で、例年以上の混雑のなか、落ち着いて話を聞いたり相談したりしたい人にとっては、むしろ会場の中心より周辺にあるブースの方が足を踏み入れやすい側面もあったのではないだろうか。会場配置はそれぞれ一長一短があり難しい。 今年の東京レインボープライドへの協賛企業・団体数は314にのぼったという。企業の参加が増えることに対し、商業主義化しているという指摘がある。日本に限らず、近年、世界各都市のプライドパレードも同様の批判がされている。 企業の参加が増えることで、社会に与える影響のインパクトが大きくなることには、一定の意義があると思う。企業ブースが並ぶことで、当事者も非当事者層からも、東京レインボープライドへの参加のハードルが下がったという声を耳にする。 誰のための・何のためのプライドなのかわからなくなってくる、という声も、年々聞くようになった。 実際、会場を歩いていると、企業ブースの担当者から「お兄さん」「お姉さん」といった見た目で性別を決めつけて話しかけられる機会が増えていると感じる。年に一度、特にトランスジェンダーやノンバイナリーの人にとっても安心できるはずの場が、むしろ期待するからこそ、傷つけられる場になっていないかと懸念する。 一部企業ブースの中には、単に自社の試供品のサンプリングをしてように見えるところもあった。ロゴをレインボーにするという工夫こそあるが、「プライドはマーケティングイベントではない」という指摘の声もしばしば聞こえる。 東京レインボープライドが終わったあと、果たしてどれだけの企業が、普段から性的マイノリティをめぐる社会状況を改善するためにアクションをとってくれるのだろうか。例年、そこかしこで言われているが、LGBTQ+にとって、一年のうちこの日だけ“自分らしく”生きられれば良いわけではない。 冒頭、久しぶりの人に会えて気分が高揚したと書いたが、すでに誰かと繋がれている人にとっては、またはお金があり企業で“活躍”できる当事者にとっては、東京レインボープライドは楽しみやすい場かもしれない。一方で、繋がりがない、孤独を感じる人がこの場を楽しめるか、繋がりを持てる場なのかは、(さまざまNPOや当事者コミュニティのブースはあれど)わからない。 またはLGBTQ+と言いつつも、シスジェンダーのゲイをはじめ男性中心な空間になっているのでは、という指摘もある。昨今、トランス女性に対するバッシングが激化するなか、トランス女性を中心としたブースや、または連帯を示すようなところはあまり見かけなかった。さまざまなジェンダーやセクシュアリティの人にとって居心地が良い場になっているかは疑問もある。 非常に混雑した会場に入れず、「ブースの裏手にいるしかなかった」という車椅子ユーザーの声もあった。障がいのあるLGBTQ+の当事者で、パレード自体に参加することが難しいという人もいる。