東京レインボープライドという「場」──連載:松岡宗嗣の時事コラム
ピンクウォッシュ
もう一つ、今年特に東京レインボープライドと企業の関係をめぐって問われたのが「ピンクウォッシュ」の問題だった。 ピンクウォッシュとは、イスラエル政府がパレスチナの占領という“負のイメージ”を覆い隠すために、LGBTQ+フレンドリーというイメージを使ってきたことを批判的に表した言葉だ。 昨年10月7日以降のイスラエルによるガザへの攻撃により、約3万5千人が死亡したと報じられている。現在も虐殺は激化している。 東京レインボープライドに協賛している企業の中には、イスラエルとの関係性からボイコット運動の対象となっているところが複数あり、LGBTQ+の人権と言いながら、他方で虐殺に加担してしまっているのでは、という批判の声があがっていた。 今年、イスラエル大使館による東京レインボープライドへのブース出展はなく、一部指摘されている企業の協賛やブース出展も見送りになるなど、TRP側も批判を受けて対応を行った。ただ、他にも関係している企業があるという指摘を受けて出した「声明」に対しては、不誠実だという声も少なくなかった。 イベント当日、会場付近や渋谷ハチ公前では、パレスチナ連帯のデモも行われ、「NO PRIDE IN GENOCIDE(虐殺にプライドはない)」との声があがっていた。 東京レインボープライド会場内でも、パレスチナへの連帯を示すため、黒い服で参加したり、即時停戦やパレスチナ解放を求めるバッジをつけて参加する人が、(参加者全体から見るとごく一部だが)少なくなかった。 各ステージでも、黒色の衣装を身につけた司会や、パレスチナ連帯のシンボルとして用いられているクーフィーヤを身につけてパフォーマンスをするドラァグクイーンもいた。パレードでも、虐殺やピンクウォッシュに反対といったメッセージのプラカードを掲げて歩く人もいた。
一人ひとりが「場」をつくる
筆者は過去、東京レインボープライドにボランティアとして参加したことがある。イベントの主催団体も当日スタッフも、それぞれが普段は別の仕事を持ち学校に通いながら、これだけの規模のイベントを毎年続けている。そこには想像を超える苦労があると思う。毎年さまざまな批判や指摘を受けながら、各所と調整し工夫を重ねながら実施している点に感服する。 ただ、日本のLGBTQ+シーンを象徴する機会とも言える東京レインボープライドにかけられる期待は大きく、その分、企業との関係やプライドが出すメッセージには重みがある。 プライドパレードの本拠地とも言えるアメリカ・ニューヨークでは、毎年NYCプライドマーチが行われているが、2019年から「クィアリベレーションマーチ」という別のパレードが行われるようになった。 そもそもプライドパレードの発端は警察への“反乱”だったことに立ち帰り、商業的な側面が強まるプライドに対抗し、企業協賛や警察の参加しないマーチになっている。各国ではこうしたオルタナティブな形を模索する動きもある。 繰り返しになるが、東京レインボープライドは「場」だ。より良い場にするためにこそ、批判的視点を持ち、主催団体に改善を求めていくことは重要だ。同時に、どんな場にしていくかは、運営側だけでなく、ブースを出展したり協賛したり、参加したりする個々人にも委ねられているはずだ。参加する一人ひとりが歴史や現状を知り、この場所や社会に何を求めていくかを考え、アクションを積み重ねていくことが重要だと思う(4月24日記)。
松岡宗嗣(まつおか そうし) ライター、一般社団法人fair代表理事 1994年、愛知県生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する「一般社団法人fair」代表理事。ゲイであることをオープンにしながらライターとして活動。教育機関や企業、自治体等で多様な性のあり方に関する研修・講演なども行っている。単著『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など。 編集・神谷 晃(GQ)