「リアルを越えたリアル」井上尚弥と白井義男の共通項。東京ドームにはボクシングの神が潜んでいる
5月6日夜、東京ドームに4万3000人の観客が詰めかけておこなわれたボクシングの一戦。井上尚弥VSルイス・ネリのスーパーバンタム級の4団体統一王座の防衛戦。日本中が注目したこの試合で、“王者”井上が“悪童”ネリを6ラウンド、テクニカルノックアウト勝ちで倒し、4団体統一王者として防衛に成功した。実は過去にもこの東京ドーム、かつての名称・後楽園スタヂアム(後楽園球場)の地で、ボクシングの“世紀の一戦”がおこなわれてきた歴史があるのだという。「世紀の番狂せ」と呼ばれた一戦、そしてこの地で日本人初の世界王者となった白井義男と井上尚弥の共通項とは? (文=布施鋼治、トップ写真=ヤノモリ/アフロ、本文写真=AP/アフロ)
東京ドームでおこなわれた2つのタイトルマッチ
ボクシングでこれだけの興奮を覚えたのはいつ以来だろうか。 5月6日、東京ドームでおこなわれた、“王者”井上尚弥に“悪童”ルイス・ネリが挑んだ世界4団体統一スーパーバンタム級タイトルマッチ。アリーナ席後方に設置されたプレス席から内野席を見上げると、超満員の観客で膨れ上がっていた。 ちょうど34年前の1990年2月11日、同じ東京ドームでおこなわれたマイク・タイソンVSジェームス“バスター”ダグラスの世紀のビッグアップセットを思い出さずにはいられなかった。そう、あのときも今回のように観客席は埋まっていた。 世界統一ヘビー級タイトルマッチということで話題を呼んだ一戦だったが、この地にヘビー級の新旧世界チャンピオンが上がったのは実はタイソンが初めてではないことをご存じか。 1951年11月18日、東京ドームの前身にあたる後楽園スタヂアム(後楽園球場)に設けられた特設リングに前世界へビー級王者だったジョー・ルイスが上がっている。戦後、アメリカから流入してきたのはコカ・コーラやジャズだけではなかった。 ルイスの対戦相手はランカーではなく、在日米兵6名が選ばれ、それぞれルイスと拳を交えた。試合形式はエキシビションマッチという触れ込みだったが、1人目のボクサーはルイスの左フックで簡単にKOされてしまう有様で、4人目からはルイスも対戦相手にある程度打たせないといけないシチュエーションになってしまったという。