NHK、34年ぶり赤字の原因はどこにある? ネトフリと比べて分かる“いびつ”な構造
NHKと対照的なBBC
厳しい状況のNHKと対照的なのがBBCだ。BBCはNHKと同じく、「広告収入」を得ない代わりに、BBC Studiosなどの商業部門で番組の権利を販売するなどして、国際市場からの収益を確保している。 そして、BBCのオンデマンド配信「iPlayer」も英国内で定着しており、デジタル化に対応するとともに多角的な収益構造を持つことに成功している。 例えば、BBCの人気番組『ドクター・フー』や『シャーロック』は、世界中で視聴される収益源となった。そして、収益以上に重要な観点がもう一つある。 それは、BBCが自国の国境を超えて人気コンテンツを提供することで、「英国文化の発信」という公共放送の存在意義を果たしているということだ。現状、NHKの国際展開はNHK Worldを通じて行われているが、国際的影響力は限られ、また収益源としての役割も弱い。 対して、BBCはその運営方針において独立性を強調し、視聴者から広く支持されている。BBCのニュースやドキュメンタリーは、世界的にも公平性が評価されており、国際的な報道の場面で信頼できる情報ソースとして引用されることも珍しくない。 NHKも独立性を強調するが、今年8月には、ラジオの放送原稿を読み上げていた中国籍の外部スタッフが、中国語で「釣魚島と付属の島は古来、中国の領土です」などと発言したとして契約解除されるという、前代未聞の不祥事が発生したばかりだ。 また、NHKは公共放送としての使命を果たすため、災害時の迅速な情報提供や教育コンテンツの充実に努めているが、その意義は国内市場に限定されがちだ。 公共放送の目的が日本国内における情報提供や教育、文化継承にとどまっている現状を打破し、国際的な視点を持って正確かつ信頼できる情報を発信する体制も、より一層強化していくべきではないか。
BBCの受信料徴収はもっと厳しかった
ちなみにBBCは、受信料を払わないと罰金を徴収する仕組みで、NHKの受信料モデルより厳しい。近年では、BBCのストリーミングサービスの普及に伴い、若年層を中心としたライセンス料の支払い範囲の拡大に疑問を抱く人が増え、代替的な料金の導入を求める声も上がっている。 この点はNHKもBBCも似ており、現代の高度化した情報社会において、公共放送の役割を再定義しなければならないのはどの地域も同じなのかもしれない。 そうはいってもやはり、NHKが慢性的な赤字体質に陥り、経営危機ともなれば救済のために巨額の公的資金が投入されるリスクもある。 それを避けるためには、柔軟な収益モデルへの転換とともに、デジタル化戦略の強化、そして日本人だけからお金を徴収するモデルから、国際市場に打って出るビジネスモデルの転換が必要だろう。 デジタル時代における公共放送の在り方を再定義し、国内外の視聴者に対して価値を提供し続けるためには、NHKの持続可能な改革と収益モデルの見直しが不可欠である。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。Twitterはこちら
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