「空中のF1」予選9位の室屋に逆転Vの可能性は?
時速370キロに、F1の倍にあたる10のGフォースがかかるため「空中のF1」とも呼ばれるレッドブル・エアレースが16日、千葉の幕張海浜公園で開幕し予選ラウンドが行われた。 海岸沿いの全長約4キロの直線コースに設けられたナイロン製のパイロンのゲートをくぐりながら14人のパイロットがタイムを争うレースで、日本人パイロットとしてアジアからただ一人参戦している室屋義秀(42)は、52.429秒のタイムで、予選を9位で通過。明日、17日に行われる決勝レースは、1対1で対戦していく“勝ち抜き戦”形式で、室屋は、最初のラウンドで、予選6位のマーティン・ソノカ(チェコ)と対戦することになった。なお予選1位は51.102秒を叩きだした昨年度の年間ランキング4位であるニコラス・イバノフ(フランス)。
幕張の海岸が人であふれた。あいにくの曇り空だったが、日本初上陸となるエアレースへの関心は高く、予選ラウンドにもかかわらず6万人もの観客が集まり、チケットはソルドアウト。レースディレクターのスティーブ・ジョーンズ氏も、「世界でも予選からこれだけの人が来るのは珍しい」と、驚くほどだった。小学生の頃、近くの習志野に住んでいたことのある室屋にとっても、感激のレースになった。 「2009年に(レッドブルエアレースに)デビューしてから、ずっと、この日をもとめて、いろんなところに働きかけて、やっと開催ができました。子供の頃から知っている幕張の空を飛び回ることには、感慨深いものがありました。見慣れた景色でのレースは初めてで違和感もあったのですが、知った場所でレースができるのは、ポジションの確認とか、よけいなことをしなくていいので、楽しむことができました。スカイツリーも見えました」 1000分の1秒の差で勝負するエアレースの世界では、あらかじめイメージして予測したラインをフライトしていく。そのコマ送りのようなポイント、ポイントを視界から見えるわずかな風景で判断することになるが、勝手知るホームの空で、室屋は、その作業に手間をかける必要がなかったという。大きなホームアドバンテージである。 2本飛んで、良い方のタイムで、順位付けされる予選ラウンドの1本目で、室屋は、第4ゲートの通過時に規定の機体の角度を守ることができずに、2秒プラスのペナルティを受けた。「シケイン(機体を横に倒してクリアするスラロームコース)の出口から大きく左へ膨らまねばならない。あそこがコースのポイント」と、レースディレクターが指摘していたコースの罠にはまった。なんとか2本目には、ミスを修正して、52.429のタイムを出したが、51秒台が、4人も揃うハイスピードレースで後ろから数えた方が早い順位に終わった。 今レースからスポンサーの協力を得てニューマシンを導入した。EDGE540 という機種のバージョンを「2」から「3」にアップ、それをさらに「3.5」まで改良を加え、「30キロは違う」と、戦える機を手にした。「テクニックより直線の速さが勝敗を分ける」というのが特色の幕張のコースで、勝負できる武器だったはずだが、予選トップのイバノフをはじめ、関係者の多くが「室屋は、ニューマシンのセッティングを合わせるのに苦労しているようだ」と口をそろえる。おそらく9位に終わった原因は、ニューマシンのセッティングへの時間不足だったのだろう。室屋も「まだ2回しかこのトラックを飛べていない。2回目のセッティングは、よくなかった」と言うが、決して9位発進をマシンのせいにすることもなかった。 「福島で2週間セットアップしてきて、いい出来上がりになって満足している。おかげで楽しいがレースできるし性能がいい。ターンも悪くない状態。今晩、解析しているので(明日は)ベストに近づくと思う」 さっそく解析スタッフが、エンジンの再調整と、レースでのライン取りなどの戦略をコンピューターを使って練り始めた。室屋のマシンが明日の決勝ラウンドで急転、威力を発揮する可能性は残っている。