発達障害児と定型発達児が影響し合いながら成長。日本の幼稚園が実践する「インクルーシブ教育」に、海外からも熱い視線!
海外からも注目!60年前から「インクルーシブ教育」を実践している幼稚園があった
社会のあらゆる局面で「多様性」が尊重されるようになった昨今。教育分野では、障害のある子どもとない子どもが一緒に過ごしながら共生社会を目指す「インクルーシブ教育」という言葉をよく目にするようになりましたが、実は60年前からこの教育法を取り入れている幼稚園が日本にあるのをご存知でしょうか? その幼稚園とは、東京都武蔵野市にある武蔵野東第一・第二幼稚園。同園は創立時からずっと自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを数多く受け入れ、定型発達(発達障害を伴わない人)の子どもと一緒に学ぶという独自の教育法を貫いてきました。 海外からも視察に来るほどユニークな同園の教育内容を知ることができるのが、園長である加藤篤彦氏が綴った『みんなを幸せにするインクルーシブ教育:自閉症児と定型発達児が共に学ぶ武蔵野東幼稚園の挑戦』です。本書を読むと、インクルーシブ教育が発達障害児だけでなく、定型発達児にも良い影響を及ぼすことが分かり、多くの人がインクルーシブ教育に対する先入観を覆されるでしょう。 そこで今回は、本書から同園の教育が定型発達児におよぼす影響を綴った個所と、インクルーシブ教育の重要性について言及した部分を抜粋したいと思います。
クラスみんなが、それぞれの子の行動を受け入れ、手を差し伸べる
6月、年長クラスで「おたんじょうかい」が開かれました。この日の誕生会としてみんなで楽しむゲームは「フルーツバスケット」がいいと決まったようです。鬼役の子が「イチゴ!」「リンゴ!」「バナナ!」などと言うと該当する子が席を移動し、「フルーツバスケット!」と言うと全員が移動する定番のゲームです。 ゲームが始まってまもなく、鬼役になったC君が床にしゃがみこんでしまいました。ASD児が椅子に座れず鬼役になったのです。すると、ある子がC君の近くへ歩み寄り、「何がいい?」と声を掛けました。その様子を見て、他の2~3人の子もC君の近くに寄ってきて「どうしたい?」「イチゴがいい?」などと声を掛けます。クラスには誰一人として「早くして!」とか「決めて!」とか言う子はいません。みんな、C君がアクションを起こすのをじっと待っています。 その後、C君の小さな声を聞きとったお友達の一人が「リンゴ!」と宣言。また一気に盛り上がります。C君もクラスのみんなに促されて空いた席へと移動しました。 ゲームが進む中、同じくASD児のDちゃんの靴が脱げてしまいました。するとすかさず、近くの子が履かせようとします。でも、なかなかうまくいかず、ゲームは一時中断を余儀なくされます。 このように、本園のゲームはいつも「わちゃわちゃ」しながら進みます。傍から見れば、テンポよくゲームが進みませんから、何ともまとまりがないように見えてしまうかもしれません。けれども、テンポよく物事が展開すれば安心というのは、大人側の視点ではないでしょうか。大切なのはASD児も含めて、みんながそれぞれにそれぞれの子の行動を受け入れ、ときに手を差し伸べながら、クラス全体がそのクラスのペースで楽しむことです。